キングダム

カタルシス(嬴政×信)前編

キングダム 嬴政 信 政信
Pocket

  • ※信の設定が特殊です。
  • 女体化・王騎と摎の娘・めちゃ強・将軍ポジション(飛信軍)になってます。
  • 一人称や口調は変わらずですが、年齢とかその辺は都合の良いように合わせてます。
  • 嬴政×信/漂×信/嫉妬/無理やり/ヤンデレ/All rights reserved.

苦手な方は閲覧をお控え下さい。

 

女将軍の帰還

戦から帰還した信が、瀕死の状態にあるという報せを受け、嬴政はすぐに医師団に指示を出した。

飛信軍の力は秦国には欠かせない。

そして飛信軍を率いる将である信を、何としても失う訳にはいかなかった。

どんな手を使ってでも救命せよと大王の権限を駆使した命令を受け、医師団は信の治療に全力を注いだ。

幾度も死地を駆け抜けて来た信はいつも怪我が絶えず、多少の傷で怯むような女ではないのだが、今回は事情が違った。

敵本陣に猛攻撃を仕掛けている最中、右腕に毒矢を受けたことが原因で、その毒が全身を蝕んでいるらしい。

矢を受けた時に、毒が塗られていると気付いた信は咄嗟に矢を引き抜き、口で毒を吸い出したことによって、幸いにも致死量は免れたという。

すぐに引き返して救護班の処置を受ければ良かったものの、信は敵の総大将を追うことを優先したのだ。

そして敵の総大将を討ち取った後に、ほぼ気力だけで動いていた彼女は馬上でついに意識を失い、そのまま地面に崩れ落ちたという。

飛信軍の副官である羌瘣が、意識のない彼女をすぐに連れて救護班の元へ向かい、早急に処置を受けたことで一命は何とか取り留めたのだが…。

戦が終わって三日が経った今も、信の意識はまだ戻らない。

医師団たちも手は尽くしてくれたのだが、あとは彼女次第かもしれないと残酷な言葉が投げかけられた。

咸陽宮の一室で、医師団の指示を受けた侍女たちが付きっきりで信の看病に当たってくれている。

しかし、意識が戻ったという報告は一度も聞かれていない。

 

秦王の看病

今日の分の政務を終わらせた嬴政は、足早に信が眠っている部屋へと向かった。

部屋の前にいる衛兵が嬴政の姿を見ると、すぐにその場に膝をついて頭を下げる。

すぐに顔を上げるように声を掛け、嬴政が扉越しに声を掛ける。

「信、入るぞ」

扉を開けると、中から熱気が溢れ出し、嬴政は思わず眉を顰める。

冬でもないのに、部屋の角では青銅製の火鉢が設置されていた。

毒の成分を体外に出すために、なるべく水を飲ませて汗をかかせるようにと医師団からの指示があり、火を焚いて室温を上げているのだ。

寝衣も布団も冬仕様の厚い生地で出来ているものを使うことで、無理やり汗を流させているらしい。

彼女の看病に当たっている侍女も汗をかいていた。

部屋に足を踏み入れただけで、嬴政の全身もじっとりと汗をかき始める。

下手すれば看病に当たっている侍女も脱水で倒れてしまうかもしれない。

「手厚い看病、感謝する」

労いの言葉を掛けると、侍女はたちまち顔を真っ赤にさせて「とんでもございません!」とさらに頭を下げる。

「…少し、二人にしてくれないか」

嬴政の言葉に、すぐさま侍女が部屋を出ていく。

背後で扉が閉まると、ようやく二人きりになったことを実感した。

寝台の隣にある椅子に腰を下ろした嬴政は、まじまじと彼女の顔を見つめる。

これだけ熱い部屋にいるというのに、信の顔色は青白かった。

それでも戦から帰還した時の死人のような顔に比べれば、まだ良くなった方だ。

しかし、信は今も苦しそうに早い呼吸を繰り返している。

少量の毒でこれだけ苦しんでいるのだから、もしも致死量が回っていたとしたら、確実に彼女は亡き者になっていただろう。

寝台の傍に置かれている台には大きな水甕と、汗を拭うための布と水桶が置かれている。

嬴政は手を伸ばして、汗で張り付いた前髪を指で梳いてやる。

これだけ部屋は暑くなっているのに、信の肌はまるで氷のように冷たかった。

もしも今、彼女の呼吸が止まれば、死人そのものである。そう思うと、嬴政は情けなく震え上がりそうになった。

「……ぅ…」

眠っている彼女の瞼が鈍く動いたのを見て、嬴政ははっとする。

「信!」

声を掛けると、その声に反応するように、信はゆっくりと瞼を持ち上げた。

「……、………」

覇気のない双眸が嬴政を見つめている。

何か話そうと唇を戦慄かせていたが、声にはならなかった。

意識を取り戻したのかと嬴政は慌てて椅子から立ち上がり、扉の向こうにいる衛兵に至急、医師を呼ぶように指示を出した。

「信!しっかりしろ!」

名前を呼ぶと、信は青白い顔のまま、口元に薄く笑みを浮かべた。

「な、に、泣いてんだよ…」

掠れた声で問われ、嬴政は熱いものが頬を伝っていることに気がついた。情けない顔を見せまいとして、嬴政が信から顔を背ける。

「お前が、泣くなんて、珍しいな、……」

漂という名前に、嬴政は目を見開く。再び信の方を振り返った時には、彼女は再び目を閉ざしていた。

背後から医師団の者たちがばたばたとやって来る気配を感じたが、嬴政の思考はしばらく動かないままだった。

 

秦王の看病その二

顔色はまだ悪いが、体内から毒の成分は大分抜けたらしい。

あと数日だけ今と同じ処置を続けるようにと医師団から指示があった。

信が意識を取り戻したという伝令に、彼女を慕う飛信軍の兵たちも大いに安堵していた。

それまではずっと眠り続けていた信だが、意識を取り戻してからは少しずつ目を覚ます時間も増えていた。

完全に毒が抜け切っていないのだから、下手に身体を動かすと、残っている毒が再び体内に回ってしまう。

医師団からもそのことを説明されていたが、あの女が大人しく言うことを聞くとは思えない。

看病に当たる侍女や、部屋の前にいる衛兵にも注意して見ているように嬴政は指示を出した。

信は病み上がりでも無理をするのだが、今はまだ病み上がりにもなっていない。

その日も政務を終えてから、嬴政は信が眠っている部屋へと向かった。

衛兵と侍女に下がって良いと声を掛け、嬴政は寝台に横たわる彼女の寝顔を見る。

もしも剣を振るっていたら一発殴ってでも寝かせてやろうと思ったが、大人しく眠っていたらしい。

やはり毒の影響は重く、信といえど大分堪えたようだ。

まだ部屋の角で火を焚いていおり、寝具も寝衣も厚手のものを使っているせいで、汗を浮かべているものの、呼吸は随分と楽そうである。顔色にも随分と赤みが戻っていた。

「………」

嬴政は手を伸ばし、信の頬に触れた。

先日触れた時には氷のような冷たさだったのに、今ではちゃんと温もりを感じる。むしろ、発熱のせいで熱かったのだが、嬴政はほっと安堵してしまう。

熱が出ているのは体が毒を排出しようとしている正常な反応だと医師団が話していた。

先日までは、体が熱を出すことも出来なかったため、相当危険な状態だったという。

「ん…」

信が小さく声を上げる。

ゆっくりと瞼が持ち上がっていき、信の瞳が嬴政の姿を捉える。

「…喉、乾いた…」

乾いた唇で信がそう言ったので、嬴政は呆れたように肩を竦めた。

「大王に看病させる女など、この中華全土のどこを探しても、きっとお前だけだぞ」

水甕から杯に水を汲み、嬴政は信の口元に押し当てる。

しかし、信は杯から水を飲もうとしてむせ込んだ。上体を起こして飲ませるべきだっただろうか。

だが、まだ傷が完全に癒えていない彼女に無理はさせたくない。

嬴政は杯の水を口に含むと、迷うことなく信に唇を重ねた。

「…ん…」

信が驚いたように目を開いていたが、流れ込んで来た水をゆっくりと嚥下していた。

唇が離れると、呆けたように信は薄く口を開けたまま、嬴政を見つめている。

そういえば、信と唇を合わせるのはこれが初めてだった。

唇に残っている柔らかい感触と温もりが名残惜しく、嬴政の胸が切なさで締め付けられる。

水を飲ませるという名目で口づけたが、本当は理由など探さずに、嬴政は信と唇を重ね合いたかった。

戦から生還する度に、強く抱き締めて、彼女が生きていることを実感したかった。

(好きだ)

胸に秘めていた想いが堰を切ったように溢れ出て来る。

しかし、その想いは声にならなかった。

自分と信は、秦の大王と将軍という関係である。

信の性格や強さに嬴政はいつだって助けられて来たが、彼女を娶ることはまだ許されない。

中華を統一するまで、信の将軍としての立場を、利欲のまま奪う訳にはいかなかった。

信が将軍でなければ、これほどまで苦悩することはなかっただろう。

大王としての権限を存分に利用し、彼女を妻にするだけで済んだに違いない。

(いや…)

違う、と嬴政は否定した。

信が将軍という立場であるからこそ、自分は彼女に惹かれたのだ。

戦を知らぬ信など想像出来ないし、きっとそれは嬴政の知る彼女ではない。

幼い頃から戦に身を置いて来た彼女は、逆に言えば、戦しか知らないのだ。

男に抱かれる喜びや、肌を触れ合う温もり、破瓜の痛みも、まだ信は知らない。

もしも、それを自分以外の男が教えると思うと、嬴政は考えるだけで腸が煮えくり返りそうになる。

嬴政の胸の内に秘めた信への想いは着実に膨らんでいき、それは独占欲となって姿を変え始めていた。

そんな嬴政の思いも露知らず、信は嬴政を見つめている。

思わず再び口付けてしまいそうになり、嬴政は自分を必死に制していた。

「…、今日は政の格好してんだな。綺麗だ」

信の言葉を聞き、嬴政ははっと目を見開いた。

漂というのは、嬴政の影武者として選ばれた元下僕の少年のことだ。

まるで双子かと思う程、嬴政と瓜二つの顔をしており、昌文君によって咸陽宮へと連れて来られたのである。

嬴政が、弟である成蟜から玉座を奪還する過程で彼は暗殺された。

最後まで影武者としての仕事を成し遂げ、散っていったのだ。彼の死は、いつも嬴政の心にわだかまりとなって残っている。

そして、それは信も同様だった。

名を呼んでも何も話さない嬴政を見て、信が戸惑ったように瞬きをする。

「あれ?…漂?政?…お前、どっちだ・・・・?」

漂は既に亡くなっているというのに、今の信は本気で分からないらしい。

毒は抜けかけているというが、熱が出ているせいで記憶が混在しているのかもしれない。

嬴政の胸にある信への想いが、着実に独占欲へと変わっていく。

自分以外の男の名を、よりにもよって漂の名前が出たことに、嬴政は僅かに苛立ちを覚えていた。

「…眠っていろ」

嬴政は汗で張り付いている信の前髪を梳いてやった。

「手…」

「ん?」

信がゆっくりと腕を動かして、額に触れている嬴政の右手を掴む。

「冷たくて、気持ちいいな」

火照った身体には、嬴政の手の冷たさが気持ち良いらしい。

嬴政の手を頬に押し当て、信がふにゃりと笑う。

まるで氷嚢のような扱いを受け、嬴政は苦笑を浮かべた。

再び寝息を立て始めた信を見て、嬴政は再び彼女への想いを自覚した。

(…俺だけのものだ)

誰にも渡したくはないという独占欲は、既に取り除くことも出来ないほど、嬴政の中に深い根を張ってしまっていたのだった。

 

衰弱

翌日の診察で、あとは特別な処置はせず、ただ療養に努めるだけで良いとの指示が出た。

ようやくあの蒸し風呂のような環境から解放されるのかと思うと、信は安堵した。

体の毒はまだ完全には抜け切っていないが、もう危険視するほどではないという。

まだ熱は出ているが、受け答えもしっかり出来るようになっていた。

あと数日だけ咸陽宮に留まることになった信は、右腕の不調を感じていた。

毒矢を受けた右腕に、まだ思うように力が入らないのだ。

完全に毒が抜け切れば問題なく動かせるようになるはずだと医師団から言われ、二度と右腕が使えなくなってしまったらという不安が拭われ、信は安堵した。

次の戦に備えて一日でも早く鍛錬を再開したかったのだが、嬴政に「毒が抜け切るまでは許さん」と言われてしまったので、仕方なく療養に専念することにした。

本当はあの部屋で過ごさなくてはならないのだが、眠っているだけでは体が完全に鈍るので、咸陽宮の中を散歩することにした。

城下町に下りても良かったのだが、定期的に侍女が様子を見に来るので、あまり離れた場所にいくと心配をかけてしまう。

(早く戻って、あいつらにも顔見せてやらねえとな…)

廊下を歩きながら、信は飛信軍の者たちの顔を思い浮かべていた。

副官の羌瘣は毒のせいで意識を失った自分を慌てて救護班の元へ連れて行ってくれたというし、ちゃんと礼を言わなくてはならない。

今度、咸陽宮の城下町に連れ出して、満足するまで食事をさせてやればきっと許してもらえるだろう。

自分の意識が戻ったことは、伝令で飛信軍と王騎軍には伝えてくれているという。

一日でも早く戻って、心配を掛けたことを詫びなくては。

「………」

咸陽宮の廊下を突き進み、廊下の奥にある部屋に向かった。

中には父・王騎が生前振るっていた宝刀が備えられている。

王騎が龐煖に討たれた後、この宝刀を預かってもらっていたのだ。

信はまだこの宝刀を使いこなせない。

咸陽宮に来る度にこの部屋に来て、宝刀の柄を握るのだが、持ち上げるのが精一杯で、振るうことは難しい。

王騎と摎と同じ大将軍の座に就いてから日は長いが、まだ二人を越えることは出来ない。

幼い頃から、信は二人の背中を追い続けていた。

両手で宝刀の柄を掴んで持ち上げようとするが、少し持ち上がった後に、信は宝刀から手を放してしまった。

「くそっ…」

まだ右腕に上手く力が入らないのもあるが、少し力んだだけで息が上がってしまう。

毒が抜けるまでずっと眠っていたこともあり、信は筋力の衰えを自覚せざるを得なかった。

部屋を出る時に背中に剣は携えていたが、その剣の重みさえ今の信には体に負荷がかかっていた。

力んだせいか、矢傷を受けたところがずきりと痛む。息を整えながら、信は右腕を擦った。

(このままじゃまずいな…)

すぐにでも戦に出られる体制を整えねばと信は焦燥感に駆られた。この乱世で、いつ隣国が攻め込んで来るかも分からない。

趙の李牧が、水面下で戦の準備を進めているかもしれないと思うと、休んでいる暇などなかった。

あと数日は安静にしているようにと言われていたが、その数日ですら惜しい。

信は嬴政から説教を受けるのを覚悟で、王騎の屋敷に戻ることにした。

これだけ毒が抜けているのだから、多少は体を動かしても問題ないだろう。

「はあ…」

まだ毒が残っているせいで、体の熱がまだ引かない。

そのせいかまだ体に怠さも残っていた。この状態で鍛錬をするなどと嬴政でなくても、他の者たちから制止されるだろう。

それでも眠っていた間に失われた筋力や体力を取り戻すためには一日だって時間が惜しい。

この時間なら、嬴政はまだ執務中だろう。忙しい政務から抜け出すことはないはずだ。

顔を出せば安静にしていろと言われることは目に見えていたので、信は黙って屋敷に戻ることにした。

(…漂も、どっかにいるかな)

嬴政の影武者として、下僕から大出世を遂げた漂は、信の大切な友人だった。そういえば最後に漂と会ったのはいつだっただろう。

王騎と摎の養子となってから、二人に連れられて信も咸陽宮を出入りするようになったのだが、そこで出会ったのが漂だった。

お互いに下僕出身という共通点もあり、漂はまるで信を妹のように可愛がってくれた。

一緒に剣をぶつけ合って、将軍になる夢も語り合った漂は、信の中でとても大きな存在になっていたのだ。

此度の戦の件も聞いているだろうか。毒のせいで寝込んでいる間に、見舞いに来てくれたような気がする。

治療のために暑い部屋に閉じ込められて、喉が渇いてどうしようもなく、水が欲しくて目を開けると漂がいたのだ。

漂が口移しで水を飲ましてくれたことを、信は覚えていた。

その時の唇の感触も、僅かに覚えている。

「………」

指で唇をなぞり、あの時の感触を思い出す。

既に熱を出している体が燃えるように熱くなり、信は慌てて思考を振り払った。

やはり会うのはやめておこう。

今、漂に会っても、ろくに受け答えが出来ないに違いない。

ただ水を口移しで飲ませてくれただけだというのに、自分は一体何を意識しているのだろう。

信が部屋を出ようとした途端、勢いよくが開かれた。

物音に驚いて目を見張っていると、物凄い剣幕をした漂が立っていて、信のことを睨み付けていた。

 

後編はこちら