- ※信の設定が特殊です。
- 女体化・王騎と摎の娘・めちゃ強・将軍ポジション(飛信軍)になってます。
- 一人称や口調は変わらずですが、年齢とかその辺は都合の良いように合わせてます。
- 昌平君×信/ヤンデレ/無理やり/メリーバッドエンド/All rights reserved.
苦手な方は閲覧をお控え下さい。
身の潔白
正面から昌平君の視線を痛いほど感じる。震える手で帯を解こうとするのだが、力が上手く入らない。
この行為は自分が李牧と姦通をしていないことを示すことが目的であり、それ以上の意味はないはずだ。
しかし、信は緊張のあまり、その手を進めることが出来ずにいた。
青ざめたまま動き出せずにいる信を見て、昌平君が呆れたように溜息を吐く。
「…薬で眠らせている間、お前は李牧の名を呼んでいた」
信が目を見開く。
治療のために幾度も薬で眠らされていたのは知っていたが、意識がない間に自分があの男の名前を呼んでいたと聞かされて、信は愕然とした。
無意識とはいえ、どうして自分が仇である男の名前など口に出していたのだろう。
「…このままでは、密通の重罪は避けられぬだろうな」
容赦ない言葉を投げ掛けられて、信はもう何も考えられなかった。
「し、信じてくれ…俺は…」
今にも泣き出してしまいそうな弱々しい表情で、信は必死に昌平君に訴える。
「ならばあの男に破瓜を捧げていないことを証明してみせろ」
「………」
そんなことを言われても、信は戸惑うことしか出来ない。
いつまでも狼狽えている信に痺れを切らしたのか、昌平君は彼女の体を横抱きにして、寝台の上に投げつけた。
「な、なにっ…!?」
「大人しくしていろ」
驚愕している信の体を組み敷くと、昌平君の手が容赦なく帯を解いた。着物の襟合わせを捲られていき、傷だらけの素肌が露わになる。
昌平君に肌を見せるのは初めてのことで、信は羞恥と不安が入り混じり、すぐにでも泣き出してしまいそうな弱々しい表情を浮かべた。
しかし、拳を白くなるほど握り締め、抵抗をしないでいるのは、今この状況で唯一出来る意志表示だった。ここで昌平君に抗えば、ますます趙との密通に関する疑惑を向けられてしまう。
羞恥心に顔を染めながら、強く目を瞑り、信は奥歯を噛み締めていた。
視界を閉ざしていても、昌平君からの強い視線を感じる。
「っ…!」
やがて、彼の掌が傷だらけの素肌に触れ、信は思わず息を詰まらせた。
膝裏を掴まれたかと思うと、すぐに足を大きく開かされる。自分でも触れることのない淫華に、昌平君の視線が向けられたのがわかった。
「ぅ…うう…」
男に破瓜を捧げていないのは、自分自身が分かっている。それを言葉以外で証明する方法が浮かばないのが歯痒かった。
爪を剥がれたり、指を砕かれたり、痛みを耐えるだけの拷問ならばまだ良い。自分が敵の宰相と姦通をしていないことを証明する辱めを受けていることに、信はついに涙を零してしまった。
泣いたところで密通の疑いが晴れる訳ではないと信自身も理解しているのだが、溢れ出る涙は堰を切ったかのように止まらない。
趙の伏兵による奇襲のせいで兵の大半を失ったことも、戦況を傾けてしまったことで、此度の戦の敗因は自分にあると信は自責していた。
だが、軍の総司令官である昌平君から密通を疑われたことは、何よりも彼女の心に深い傷をつけた。
あの時、趙の伏兵に気付けていれば、奇襲にも怯まず、秦を勝利に導いていればこんなことにはならなかったのだろうかと考える。
すすり泣いている信に一目もくれず、昌平君の指が花襞を指で押し広げた。
男との経験がない信には、どういう方法で破瓜を捧げていないか見分けるのか分からない。ただ昌平君に身を委ねていれば良いのだろうが、この辱めはいつまで続くのだろうか。
「んぅ、ぅ…」
淫華を確認するように、指が入口を上下になぞる。自分でも触れない場所に他人の指が触れる刺激に、信は体を強張らせた。
反射的に閉じてしまいそうになる脚を、淫華を弄っていない方の手で押さえ込まれる。
「ぅう”う”ッ」
狭い其処に乾いた指が捻じ込まれる痛みに、噛み締めた奥歯からくぐもった悲鳴を洩らした。
「ぅ…っ…」
指を引き抜かれ、信はほっと息を吐いた。破瓜を捧げていないことを分かってもらえたのだろうかと、涙で潤んだ瞳を開ける。
しかし、昌平君が足の間に顔を寄せていて、熱い吐息が吹き掛けられたことに信は悲鳴に近い声を上げた。
「ひぃッ…!?やッ、ぁあッ―――!?」
何をしているのだと問うより先に、先ほど指を挿れられていた淫華に舌を這わせられる。
身の潔白を示すために、抵抗はしないつもりだったのだが、驚愕のあまり、信は昌平君の髪を掴んでその頭を引き剥がそうとする。
しかし、女の官能をつかさどる其処をぬめった舌で刺激されると、それだけで信の体は動けなくなってしまう。
花襞を掻き分けて、薄紅色の粘膜の中に舌が入り込んで来る。乾いた指と異なり、唾液が滴っているせいか先ほどのような引き攣る痛みはなかったのだが、それでも異物が入り込んで来る違和感に信は戸惑った。
「やぁ、放せッ」
舌を差し込むことが、破瓜を確かめる行為とは思えず、信は身を捩って逃げようとした。まだ完治していない左足の傷が引き攣るように痛む。
ようやく昌平君が其処から顔を離したかと思うと、今度は覆い被さって来る。彼の端正な顔が近づいて来て、信が言葉を発する前に、唇が重なった。
「んぅっ…」
視界いっぱいに昌平君の顔が映り込んでおり、唇を覆う柔らかい感触に、彼に口付けられているのだと少し遅れてから察した。
敷布の上に手を押さえられ、指が交差する。まるで恋人同士のような繋ぎ方に、信の頭の隅に、縫合の処置をされた時のことが浮かんだ。
先ほどまで淫華を愛撫していた舌が口の中に入り込んで来て、信は青ざめる。
「ん、んーっ、ぅうっ…!」
どうして彼に口付けられているのか理解出来ぬまま、信はくぐもった声を上げていた。
身の潔白 その二
昌平君の体を突き放そうとするが、上手く力が入らない。
代わりに口内に入り込んで来た舌に歯を立てて抵抗を試みるが、昌平君は口づけをやめようとしなかった。逆上して殴られた方がまだマシだった。
「んうッ、んんぅ―――ッ!」
唇を重ねながら、淫華に再び指が差し込まれる。先ほどまで昌平君が舌で愛撫していたせいか、唾液の潤いを利用して、奥深くまで二本指が入り込んで来た。
自分でも触れたことのない場所を擦られる耐え難い感覚に、信の表情に嫌悪感が浮かぶ。
「はあっ…」
ようやく唇が離れると、信は肩で息をしていた。
何をされているのか理解出来ない困惑と不安と羞恥が混ざり合った複雑な表情で、彼女は昌平君を睨み付ける。
「ふ、ふざけんなッ…!何してッ…」
「李牧に破瓜を捧げていないんだろう?」
昌平君が冷たい瞳を向けた。
当たり前だと言い返そうとした瞬間、中で指を動かされて、信は声を喉に詰まらせてしまう。
「男と経験があるように思えるが?」
指が動かしやすくなっているのは、唾液だけでなく、淫華の蜜が溢れ出て来ているからだ。粘り気のあるその蜜の分泌は、身体が本能的に男を求めている何よりの証拠である。
「ち、がうっ…!」
中で昌平君の指が動く度に蜜がどんどん滲んでいくことを、信も自覚していた。しかし、それは自分の意志一つで制御することは出来ない。
「ひぃ、んっ…」
二本の指が引き抜かれ、持て余していた親指で花芯を擦られると、信が自分でも驚くような甲高い声を上げた。
全てが初めての刺激であり、戸惑うことしか出来ない信に、昌平君が呆れたように溜息を吐く。
「これほどまでに抱かれ慣れていたのなら納得できる。性に狂い、浅はかに情報を渡したか」
李牧との関係を認める言葉に、信は首を大きく横に振った。
父の仇である男に身体を開発され、快楽を求めるあまり、見返りに情報を提供したと思われており、信は止めどなく涙を流した。
「違う、ちがうっ…!ほんとに、してないっ…!」
どれだけ訴えても、こんな辱めを受けても一向に信じてくれない昌平君に、信は幼子のように泣くことしか出来なかった。
「ど、したら…信じて、くれるんだよッ…」
自分の身が処女であることを証明する術が分からない信には、彼に選択を委ねるしかなかった。
それが昌平君の策であったとしても、信が気づくことはない。策であることさえ気づけぬように仕組んでいたのだから当然のことである。
昌平君の口元が僅かに緩んだことにも、信は気づくことはなかった。
「…指だけでは分からぬ。直接確かめよう」
「え…?」
戸惑ったように眉根を寄せる信に、昌平君は再び足を大きく開かせ、腰を割り入れる。
下衣を持ち上げている男根の存在を認識し、信がひゅ、と息を飲む。まさかという目で信が昌平君を見やる。
指だけでは届かぬ場所に男根を突き挿れて、処女膜の裂傷による出血を確かめようというのだ。
男と経験のない信であっても、行為の知識はある。自分の身の潔白を示すためとはいえ、ここで破瓜を捧げることになるとは思わず、信は狼狽えた。
大将軍の座に就いた以上、女としての幸せは手放したつもりだった。
嬴政の金剛の剣として、秦を勝利に導いていければそれで良いと思っていたのだが、そんな自分が男に身を捧げることになるだなんて微塵も思っていなかった。
唇を戦慄かせて怯えている信を、昌平君は黙って見つめている。
無理強いはしないという意志の表れだった。
しかし、それは決して信を気遣うものではなく、ここでその身が処女だと証明して、密通の疑いを晴らさねば、信の大将軍としての未来は潰えるという無言の脅迫でもあった。
「わ、わかっ…た…」
情けないほど声を震わせて、信は頷く。彼女がそう答えるのを昌平君は手に取るように分かっていたし、受け入れざるを得ないことも知っていた。
破瓜
破瓜は痛いものだという知識を得たのはいつだっただろう。
飛信軍の兵たちにも妻子を持つ者は多く、中には尾平のように、幼馴染だった女性と結ばれた者もいる。酒が入った中で、愛する女との初夜を語り合う無粋な兵もいたが、その話の中で破瓜の痛みに打ち震える姿に欲情してしまったという話を信は聞いていた。
女である以上は誰もが通る道なのだとその時は考えていたが、実際にその状況に追い詰められると、なかなか覚悟が出来ないものである。
しかし、信は逃げなかった。自分の身の潔白を示すためにはこうするしかないのだと、その表情に、諦めの感情さえ浮かべていた。
しゃっくり交じりの泣き声を聞きながら、昌平君は少しも表情を変えないまま、彼女の細腰を引き寄せた。
先ほど信の身体を愛撫していた時から勃起し切っていた男根の先端を、淫華に押し当てる。
目を瞑りながら、未知なる痛みに構えている信を見下ろして、昌平君は思わず唇に苦笑を浮かべていた。
「信」
「ぅ…」
名前を囁くと、それだけで信の身体がびくりと跳ねる。
昌平君は敷布の上に力なく倒れている信の手に指を絡ませた。縋るものを見つけた信は、彼の手の甲に指を痛いくらいに食い込ませる。
「…息を吐いていろ」
言いながら腰を前に押し進めていくと、信の閉じた瞼から涙が伝う。
「ぁあああッ」
男根を受け入れた其処は、相変わらず狭くて、昌平君は息を詰まらせた。
「ぅううっ、ふ、ぅぐ…」
喉から絞り出すような悲鳴を上げた信は初めての感覚に戸惑うことしか出来ない。
淫華が限界まで口を開いて、男根を飲み込んだ。一番奥まで男根の切先が届くと、信は肩で息をしながら額に脂汗を滲ませていた。
「ぁ、はあ…」
想像していたような破瓜の痛みを感じなかった信は、安堵したような、戸惑ったような、複雑な表情を浮かべながら息を吐いている。
昌平君は信の額に唇を落とすと、
「…情報漏洩だけでなく、李牧と姦通までしていたか」
刃のような冷たい声を零した。男根を受け入れて息を吐いていた信が、その言葉を聞いて瞠目する。
「え…」
結合している部位に指を這わせ、昌平君が耳元で低く囁く。
「ここに男を咥え込むことに、随分と慣れているようだな」
「―――ッ」
処女ではないことを疑われ、信は泣き叫びたくなった。
意を決して昌平君の身を受け入れたというのに、密通の疑いが晴れないどころか、さらに疑われることになるだなんて。
「してないっ…ほんとにっ、俺は…秦を裏切る真似なんてっ…」
いよいよ耐え切れず、信は幼子のように声を上げて泣き出した。
嗚咽を交えながら、必死に身の潔白を訴える信に、昌平君は構うことなく律動を送る。
「やあぁっ、ぁあっ、やめっ…」
男根が激しく出し入れされる度に、信は背中を反らして、白い喉を突き出す。嫌悪だけじゃなく、淫らな声を上げる信に驚いていたのは、彼女自身だった。
「なっ、んでぇッ…ちが、ちがうぅっ…俺はぁッ、ほんとに…」
硬い男根に奥を突かれる度、勝手に声が上がってしまう。
破瓜はただ痛いものだと思っていた信は、こんな風に内側から爆ぜられる快楽があるだなんて知らなかった。何の感情かも分からない涙が止めどなく流れ、頬を濡らしていく。
「信っ…」
腰を動かしながらも、昌平君が身を屈めて涙で濡れた頬に唇を寄せて来た。
「んんぅッ」
唇を重ねられると、自分の涙の塩辛い味がして、信はくぐもった声を上げる。
淫らな水音と共に肉のぶつかり合う音が響き渡る。汗ばんだ素肌と、昌平君の荒い息遣いを感じ、信は怯えたような瞳を向けた。
「待っ…も、もうっ…」
これ以上はやめてくれと、言葉を途切れ途切れに紡いで訴える。
奥を突かれる度に自分が自分ではなくなってしまいそうな耐え難い恐怖もあったのだが、男女が身体を重ねる行為が本来何をするためのものかを信も分かっていた。
このままでは昌平君の子を孕んでしまうと恐れた信は必死に彼の体を突き放そうとする。
しかし、敷布の上で絡ませ合っている両手を、昌平君は離してくれなかった。両足をじたばたと動かしながら、信は首を横に振る。
「だめだッ、やめ、も、もうやめてくれッ」
悔しいが、李牧との姦通の疑いが晴れなかったことはもう分かったはずだ。これ以上、この行為に意味はない。
聡明な昌平君も分かっているはずなのに、少しも放してくれる気配がなく、信は戸惑った。信の首筋に顔を埋め、荒い呼吸を繰り返しながら、腰を揺すっている。
「な、なんでっ…!」
どうしてやめてくれないんだと信が泣きながら訴えるが、昌平君は何も答えない。
淫華の感触を男根で心ゆくまで味わうように、子宮を押し上げられて、信は悲鳴交じりの声を上げた。
「くっ…」
やがて、耳元で低い唸り声がして、信はまさかと青ざめた。
「い、いやだッ、やだ、放せッ、やだあッ」
淫華に埋め込まれた男根は、楔のように固く動かない。
敷布の上で両手を軽々と押さえ込まれると、いかに大将軍の座に就いていても、自分は女なのだと認めるしかなかった。
「―――ッ」
…やがて、中で男根の脈動を感じるのと同時に、熱い何かが弾けたのを感じて、信は限界まで目を見開いた。
何度目かの情事
「ぁ、……ぁ…」
唇を戦慄かせるが、驚愕のあまり声が喉に張り付いて、掠れた吐息しか出て来ない。
ようやく最後の一滴まで吐精を終えると、昌平君は信の体を抱き締めたまま動かなかった。彼の腕の中で、信はしゃっくりを上げながら泣いた。
敵国の宰相と通じていたことを否定するはずの行為だったのに、いつの間に凌辱へ目的がすり替わったのだろう。
「な、んで…」
掠れた声で紡いだ言葉が、昌平君の耳に届いたらしく、彼はゆっくりと身を起こした。しかし、未だ深く突き刺さったままの男根を抜く気配は見せない。
「ん、んぅ…」
信と体を繋げたまま、昌平君は彼女にそっと口づけた。もはや抵抗する気力もない信はされるがままに舌を吸われ、絡め取られる。
長い口づけを終えてから、昌平君が静かに口を開く。
「…李牧と姦通していないことは知っていた。元より、密通などしていないことも」
昌平君の言葉を聞き、信は驚きのあまり、言葉を失う。
「お前を薬で眠らせている間に、破瓜を奪ったのは私だからな」
「――――」
全身の血液が逆流するような、おぞましい感覚が走る。
既にこの身体は処女ではなかったのだと教えられ、未だ昌平君の男根を受け入れている部分が鈍い痛みを覚えた。
薬で深い眠りに落とされ、その間に昌平君によって破瓜を破られていたのだと分かり、信は言葉を失った。
(なんで…そんなこと…)
昌平君が破瓜を奪ったのも、李牧と姦通していないことを知りながら、密通の疑いを掛けただけでなく、処女だと示せと不要な取引を持ち掛けたのも、信には全く理由が分からなかった。
震える手で、信は自分の下腹部に手をやった。薬で強制的に寝かせられ、抵抗も出来ないまま、この体は彼にどれだけ犯されていたのだろう。
しかし、昌平君の屋敷に身柄を移された理由はそこにあるような気がした。
「な、なん、で…?」
絞り出すような声で信が問うと、昌平君の瞳が楽しそうに細まっていく。
「お前が眠っている間、既に密通の疑いがあることを大王様に告げておいた。此度の敗因を理由に、大将軍の座から降ろすこともな」
信がその言葉の意味を理解するまでに、やや時間がかかった。
密通の疑いがあると疑われ、信は自分の無実を示すために、彼にこの身を委ねたというのに、昌平君は既に嬴政に告げていたというのだ。
嬴政がそれを了承したのかは分からないが、既に大将軍の座から降ろされることが決まっており、信は愕然とするしかなかった。
「そ、んな…だって、お前、俺が密通なんてしてないって、分かってて…!」
「そうだ。その上で、お前を大将軍の座から降ろした」
当然のように返した昌平君に、信は恐怖に近いものを感じた。
今まで共に秦国のために戦って来た仲間であるはずなのに、中身だけが全くの別人のように思えてしまう。
嫌な予感がして、胸が締め付けられるように痛む。
治療のために薬で眠らされていたのは知っていたが、自分の意識がない間に、この体の破瓜を破り、嬴政に密通の疑いがあることを告げて大将軍の座から降ろしすことを決めたと昌平君は言った。
…しかし、本当にそれだけだろうか。
秦の未来を想えばこそ、密通の疑いがある者を排除するのは当然だ。ならば将軍の座から降ろすことより、凌辱を強いることより、処刑にしてしまえば良い。軍略や内政について詳しくない信でさえ分かることだ。
大将軍の座から降ろし、凌辱を強いても、それ以上の厳しい処罰を下すつもりがない矛盾に、軍の総司令官にまで上り詰めたこの怜悧な男には、別の目的があるのではないかと考えた。
「俺が、邪魔なら…こ、殺せば、良いだろッ…!」
体を震わせながら、切羽詰まった声で問うと、昌平君はすぐに答えず、彼女の左足を掴んで持ち上げた。脹脛には縫合されるほど深い傷があったが、今はもう塞がりかけている。
何の躊躇いもなく足の指に舌を伸ばした昌平君を見て、信がひっ、と短い悲鳴を上げた。
「大王様が、お前の密通を素直に認めたと思うか?」
「……、……」
信は唇を噛み締めた。自分が趙と密通しているだなんて、嬴政が信じるはずがない。
もしもそんなことがあれば、真相を確かめに、自ら信に問い質すだろう。秦王自らがそのような行動に出るほど、信の忠義は厚いものだった。
信が処刑を免れて、大将軍の座を降りることだけで済んだのは、嬴政の慈悲なのだろうか。
「…今は情報操作を行っており、私と大王様、それと河了貂だけがお前の密通の疑いを知っている」
涙で濡れた目をつり上げて、信は昌平君を睨み付ける。
信の密通の疑いをでっち上げたのは昌平君本人だというのに、まるで真実のように嬴政と河了貂にその嘘を信じ込ませようとしたのだ。
どうしてそんなことをしたのか、信には昌平君の目的がますます分からない。彼こそが密通者で、秦国を陥れようとしているのではないかとさえ思った。
「今は療養のために身柄を預かると伝えているが…もしも密通の疑いが秦国中に広まれば、混乱は確実。大王様がいかに寛大なお心を以てしても、お前の処刑は免れぬだろうな」
「そ、んなっ…」
目は閉じていないはずなのに、信の目の前が真っ暗になっていく。
父の仇だけでなく、多くの兵たちの仇を討つことも叶わず、それどころか憎い男と密通の疑いを掛けられて首を落とされることになるなんて、今の状況など比べ物にならないほど耐え難い屈辱だった。
「趙との密通の疑いを秦国に広めないためには、このまま私の妻になるより、他に道はない」
「―――」
それは信が二度と戦場に立てなくなることを意味していた。
眠っている間にも腹に子種を植え付けられていたのだから、どのみち戦に出られなくなるのは信も分かっていた。
父の仇をこの手で討つことが出来なくなるのかと思うと、悔恨の想いが胸を支配していく。
しかし、昌平君は容赦なく、信に刃のような冷たい言葉を投げつけた。
「お前は何も案ずることなく、ここで私の子を孕めばいい。それとも、裏切り者として中華に汚名を広めるか?」
選択を突きつけるように見せかけ、いつだって昌平君は一つの道しか与えない。自分の妻になるよう、信にずっとその道を歩ませていたのだ。
…どうしてこんなことになってしまったのだろう。
頭の中で、何かが砕けていく小気味良い音を、信は確かに聞いたのだった。
「こんな姑息な方法でしか、お前を手に入れられなくて、すまない」
「………」
「愛している、信」
優しく抱き締められて、耳元で囁かれる昌平君の優しい声も、その小気味良い音と共に、信の頭の中に響いていた。
幸福な日々
妻の髪を櫛で梳きながら、そういえばすっかり髪が伸びたなと昌平君は考えた。
色素が抜けてしまった信の髪は、差し込む温かい日差しを浴びて、きらきらと輝いて見える。
濡羽色をしていた髪も好みだったが、汚れのない純白も彼女の魅力を際立たせている。どんな宝石よりも美しい髪に昌平君は指に絡ませて、つい口付けていた。
温かい日差しを浴びているうちに、うたた寝をしていた信の頭がかくんと大きく傾く。弾かれたように、はっと顔を上げた。
「眠いのなら寝ていろ」
再び信の髪に櫛を入れながら、昌平君が声を掛けた。
「だ、大丈夫だ…悪い…」
うたた寝をしてしまったことを恥じらうように信は顔を赤らめて縮こまる。櫛で丁寧に梳かし終えた後は、昌平君は彼女の髪を結っていく。
高い位置で髪を結い終えると、信がゆっくりと顔を上げた。
「…夢、見てたんだ」
「夢?」
昌平君が聞き返すと、信が小さく頷いた。
「俺、馬に乗ってた…それで、戦場にいたんだ…」
妻の夢の内容を聞き、昌平君が僅かに顔をしかめた。
「たくさんの味方の顔、敵兵の顔も、全部、全部…馬の上から見てた」
それは大将軍が見る光景だったのだろう。そうか、と相槌を打った昌平君が信の項に唇を落とした。
「敵兵が襲って来るんだけどよ、俺が剣を振るうとみんな吹っ飛んでくんだぜ。それで、敵の本陣に突っ込んでいくんだ」
あはは、と信が笑う。
それが夢ではなく、彼女が実際に見ていた景色であり、彼女自身の力で敵兵を薙ぎ払って作った道だということを、信はもう覚えていない。
「飛の旗がたくさんあって…なんか、飛信軍の女将軍になった気分だった」
「…それは、おかしな夢だな」
昌平君が信の腕をそっと掴む。筋力の衰えた腕は以前にも増して細くなっており、昌平君が力を込めれば簡単に折れてしまいそうだ。
最近は昌平君が傍にいる時にしか外に出ないせいか、日に焼けず、肌の色もますます白くなっていた。肌に刻まれた傷痕も新しいものが上書きされないせいか、どんどん薄くなって来ている。
まさか彼女が中華全土に名を轟かせた飛信軍の女将軍など、誰も気づかないだろう。信自身ですら気づいていないのだから。
「お前は不運にも戦に巻き込まれただけ。このような細い腕で、武器など振るえるはずがないだろう」
「うん。だから、変な夢だなあって思ったんだ」
昌平君の言葉を微塵も疑うことなく、信は素直に認めた。
剣を握ることで出来ていたマメも、戦で受けた傷痕も、信にとっては身に覚えのないものなのだが、全て戦に巻き込まれて出来た傷痕なのだという昌平君の言葉を、彼女は疑わなかった。
背後から信の体を抱き締めた昌平君は、彼女の首筋に顔を埋めた。突然抱き締められたことに、信は小首を傾げている。
「…すまなかった」
「え?」
どうして昌平君が謝罪するのか、理由が分からず、信は小首を傾げた。
「全ては、私の責だ」
「………」
信が記憶を失うことになってしまったことを謝罪しているのだろうか。軍の総司令官という立場である以上、戦を起こしたことに感じているのかもしれない。
気にすることはないと信が告げる前に、昌平君が口を開く。
「…結果的に、お前を妻として娶れたことに喜びを感じている。…悪い夫だろう」
髪を撫でられながら、信はそんなことないと首を横に振った。
飛信軍を率いていたことも、王騎と摎の養子として育てられたことも、髪の色と同じように、信の記憶からは綺麗に抜け落ちてしまったのだ。
医師団が治療のために用いたあの香には、陶酔感をもたらす他に、もう一つ特別な作用があった。
―――総司令官様、もう一つお伝えしたいことが…
―――なんだ?
―――信将軍が治療に協力してくださらないために用いていますが、本来はこれ以上の使用を禁じております。
左足の傷口を縫った後、医師が昌平君に香の危険な作用についてを説明していた。
―――この香は眠りの作用を持続させることを目的としていますが、あまり使い過ぎると、記憶を失うことがあるのです。
それは副作用のようなものだと医師は言葉を続けた。
酒を飲んだ時のような陶酔感をもたらせる効果があると聞いていたが、過度に使用すると記憶を失うのだという。
それが一時的なものなのか、長期的なものなのかは分からない。記憶を司る脳の部分にどういった影響をもたらしているのか、今の医師団の医学を以てしても証明出来ないため、過度な使用を禁じているのだという。
あの時点で、信は何度も薬と香を使って眠らされていた。それゆえ、医師団たちも彼女が大人しく治療に協力してくれないことに苛立っていたのだという。
前例があったことから注意をしていたようだが、香を使い過ぎることで、記憶を失わせるという効力は確かに実証された訳だ。
治療にも用いられる香ではあるが、催淫効果のある香でもある。呂不韋がこの香を使って女と楽しんでいたように、乱用してしまう者もいるのかもしれない。薬も使い過ぎれば毒という訳である。
今の信には、最愛の両親のことも、飛信軍の将として幾度も死地を駆け抜けたことも、多くの民や兵に慕われていたことも、何もかも記憶から消え去っていた。
今の彼女が覚えていることといえば、戦で家族を失った孤児として、昌平君の屋敷に侍女として仕えていたこと。主である昌平君と恋仲になり、妻として迎え入れられたこと。そして、不慮の事故で記憶を失ってしまったことである。
記憶を失ったにも関わらず、以前と変わらぬ愛情を注いでくれる優しい夫と、腹に宿っている子の命に、愛情を向けることで信の心は平穏でいられた。
抜け落ちた記憶を、昌平君の言葉で埋めていくと、信は従順なまでに妻としての役割を果たすようになった。
「…でも、少しだけ…残念だなって思ってることがある」
頬を赤くしながら、信が目を逸らした。
「きっと…初めての夜は、昌平君が優しく導いてくれたのに、忘れるなんて、勿体ねえことしたなって」
その言葉を聞いた昌平君がはっと目を見張る。信はさらに顔を赤くしながら、恥ずかしさのあまり俯いてしまう。
最初からそんな初夜は存在しないというのに、夫から掛けられた愛の言葉も、重ね合った肌も、破瓜の痛みも、信にはすべてかけがえのないものだった。
昌平君の子を身籠っていることから、信はきっと最愛の夫と甘い初夜を過ごしたに違いないと信じ切っているのだ。
羞恥のあまり顔を真っ赤にして黙り込んでしまった妻に、昌平君は堪らなくなり、彼女の顔を持ち上げて口付けていた。
「ん…」
信の手が昌平君の着物を遠慮がちに掴む。接吻を受け入れるように、もっと欲しいと強請るようなその愛らしい態度に、昌平君の胸に温かいものが広がった。
あの日、目を覚ましてから全ての記憶を失っていた信は、昌平君からお前は私の妻だと言われ、さぞ混乱したに違いない。
しかし、彼女は昌平君のことを受け入れた。記憶のない彼女が頼れるのは、夫だと名乗る昌平君しかいなかったのだ。
信は記憶を失ったことに悲しむことはない。何も覚えていないのだから、悲しむ理由がないのだ。
…触れるだけの優しい接吻を終えると、風が強まって来た。
「風が出て来たな。そろそろ中へ戻るぞ」
信の腰元に手を当てて、昌平君は彼女の手を引いた。
「あ、自分で歩ける…」
大丈夫だと声を掛けるが、昌平君は彼女の体から手を放さない。
「もうお前だけの体じゃない」
「…うん」
信ははにかみながら、夫に手を引かれながら歩き始めた。なだらかに突出している腹は、臨月が近い証拠だった。
一度、香の作用が抜けてしまったのか、信が一時的に記憶を取り戻したことがある。
昌平君の子を身籠った腹を見て青ざめた彼女は、泣きながら屋敷から逃げ出そうとした。扉に取り付けていた鈴が音を鳴らさなければ、従者たちに取り押さえられることなく、逃げられてしまったかもしれない。
しかし、彼女にはもう将軍としての地位は残されていない。ここから逃げ出したとしても、昌平君の腕の中にしか、信にはもう帰る場所はないのだ。
何も案ずることはないと言い聞かせながら、あの香を焚けば、信は再び深い眠りに落ちていき、目を覚ました時には逃げ出そうとしたことも忘れていた。
「…あのさ」
歩きながら、信が思い出したように口を開く。
「昌平君は…飛信軍の、女将軍のことが、好きだったんだな」
飛信軍の女将軍。まさか信の口から再びその言葉が出ると思わず、昌平君は彼女を見た。
秦国を幾度も勝利に導いた女将軍の話を彼女にしたことはあったのだが、昌平君がその女将軍に好意を寄せていたことは、今の彼女には一度も話した覚えはなかった。
「…何故そう思う?」
まさか記憶を取り戻し掛けているのだろうかと、昌平君の瞳が僅かに揺らぐ。
しかし、信が発した言葉は予想に反したものだった。
「だって…お前がいつも、その女将軍の話をする時は、俺に話し掛けてくれる時と同じ、優しい目をしてるから」
まるで嫉妬を感じさせるような彼女の言葉に、昌平君は思わず口元を緩めた。
「私が愛しているのはお前だけだ、信」
唇を重ねると、受け入れるように信はゆっくりと目を伏せた。舌を絡ませ合い、信は優しい夫の愛に応えようとする。
たとえ、何人に偽りの愛と罵られても構わない。今の信の心はここにあるのだ。その事実さえあれば、昌平君はそれで良かった。
全てが目の前にいる男の策略通りに進んでいることなど、信はこれから先も疑うことはないだろう。
終
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