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フォビア(王賁×信←蒙恬)中編

フォビア2
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  • ※信の設定が特殊です。
  • 女体化・王騎と摎の娘になってます。
  • 一人称や口調は変わらずですが、年齢とかその辺は都合の良いように合わせてます。
  • 蒙恬×信/王賁×信/ヤンデレ/執着攻め/All rights reserved.

苦手な方は閲覧をお控え下さい。

前編はこちら

 

帰還

咸陽に戻ってからも、桓騎は兵と娼婦を殺した信の行動を告げ口することはなかった。

桓騎軍の兵たちが信の処罰を求めるような声を上げずにいるのは、桓騎が口止めをしているのだろうか。

だからと言って、桓騎がこちらに何かを要求して来るようなこともない。つくづく何を考えているのか分からない男だが、恐らくこの一件に興味がないのだろう。

しかし、信の身柄を受け取りに桓騎軍の野営地へ行った時の桓騎の言葉を、蒙恬は未だに忘れることが出来なかった。

―――王翦のガキと面白ェことをしてるな。今度俺にも貸せよ。

防衛戦勝利における論功行賞で、信の武功は高く評価されていた。
しかし、将軍昇格には至らず、次回の戦での武功が期待されることになったらしい。そのことに、蒙恬は安堵した。

信は療養の名目で宴にも論功行賞にも不参加だったが、彼の身柄は今、蒙恬の屋敷で保護されている。

信に仕える兵たちは多くいるが、下僕出身である彼に家臣はおらず、身の回りの世話をさせるような従者たちもいない。

秦王嬴政の親友ということもあり、宮廷での療養も提案されたのだが、蒙恬はそれを断った。

桓騎軍の兵を殺したという同士討ちの件を信が自白すれば、いくら親友であるとはいえ、嬴政も処罰せざるを得ないだろう。

同士討ちの件は何としても隠し通しておくべきだと判断し、此度は楽華軍の下についていたことを理由に、蒙恬は彼の身柄を保護することを嬴政に名乗り出た。

信のことを心配する飛信隊の兵たちには、戦で受けた傷が咸陽への帰還中に開いてしまったのだと伝えたが、信が桓騎軍の兵を斬り捨てた同士討ちのことは告げていない。

飛信隊を信頼していない訳ではないのだが、万が一でも同士討ちの噂が広まって、信の処罰が確実なものになるのは避けたかった。

蒙恬が住まう屋敷に信は保護されていた。今は薬湯を飲ませて眠らせており、療養に専念させている。

幸いにも致命傷になり得るような傷はなかったため、蒙恬は医師に傷口を診せることはしなかった。

包帯の交換や、薬湯や水を飲ませることなど、本来なら従者たちが行うような療養の世話も蒙恬が自ら行っている。

いくら信が蒙恬の友人とはいえ、主にそんなことをさせるわけにはいかないと何度も従者たちが説得を試みるも、蒙恬は決して譲らなかった。

それだけではなく、信がいる部屋の出入りを許さないとまで指示を出したのだ。

どうして執拗に、信を隠そうとするのか・・・・・・・・・・蒙恬がその理由を家臣たちに伝えることはなかった。

 

目覚め

扉が開く音がして、信はゆっくりと目を開いた。

「…あ、今日は起きてるね」

顔を覗き込んで来た男が安心したように微笑んだ。
それが自分の友人であることに気付いた信は、名前を呼ぼうと唇を戦慄かせる。

「――、――」

久しぶりの発声だったせいか、笛を吹き間違ったような音が上がった。

背中に手を添えられて、体を起こすのを手伝った後、蒙恬は水甕から水を汲んでそれを信に差し出した。

「ゆっくり飲んで」

「ん…」

何度かに分けて水を飲み込むと、乾き切った口内と喉が潤っていく。

長い息を吐いた信は、咸陽への帰路にいたはずなのに、どこかの屋敷の一室にいることに気が付いた。

「…咸陽に、帰って来たのか?」

「帰還したのはだいぶ前。…えーと、どこから話そうかな…」

蒙恬は口元に手を当てて目を伏せた。

女が羨むほど端正な顔立ちである蒙恬がどこか体の一部が痛むかのような、辛そうな表情を浮かべていることに気付き、信は頭に疑問符を浮かべた。

「…どこまで覚えてる?」

そう問われ、信は躊躇った。何を問われているのか、蒙恬が何が訊きたいのかまるで分からない。

しかし、聡明な知能を持ち、幾度も秦軍を勝利に導いて来た蒙恬には、信のその反応を見ただけで察したようだった。

「包み隠さずに、全て言うよ」

低い声で蒙恬がそう言ったので、信は思わず固唾を飲み込む。

咸陽への帰路を辿っている途中で、信の記憶は不自然に途切れていた。撤退したはずの敵の襲撃にでも遭ったのだろうか。身体に目立つ傷はないのだが、一体何が起きたのだろう。

信は真剣な表情で蒙恬の言葉を待った。

「信が、桓騎軍の兵たちを斬った」

その言葉が耳に入って脳に届き、理解するまでには随分と時間がかかった。

「え…?」

何を言っているんだと顔を強張らせながら聞き返すが、蒙恬が笑顔を見せることはない。

もしもからかっているのなら、驚愕している自分の反応を見て、肩を震わせて笑い始めるだろう。それがいかに質の悪い冗談であったとしてもだ。

しかし、蒙恬の真っ直ぐな瞳が信から逸らされることもなければ、いつまでも冗談だと切り返す様子はなかった。

「兵と娼婦、合わせて十三人。全員死んだ」

心臓が早鐘を打っていき、こめかみが締め付けられるように痛み、背中に嫌な汗が伝ったのが分かった。

まだ自分の立場が今よりも低かった頃、死罪になるのを覚悟で千人将を斬り捨てたことを、信は今でも覚えていた。

同士討ちの罪の重さは分かっている。
非道な行いをする千人将を斬り捨てたことには微塵も後悔していないが、大切な仲間たちまでもが処罰を受けるかもしれなかったのだ。

感情を優先とした自分の安易な行動を恥じたし、二度とそのような軽率な行動は控えるべきだと自分に誓ったというのに。

「なんで、俺が…」

喘ぐような浅い呼吸を繰り返しながら、信は身体を震わせる。蒙恬が話すことが事実なのだとしても、信にはその記憶が一切なかった。

愕然としている信を見て、蒙恬は言葉を選ぶように、一度目を逸らして口を噤んでいた。

 

取引

「同士討ちの罪を知っているのは、俺と信…それから、桓騎と桓騎軍の兵たちだけ」

同士討ちをした事実を受け入れられないでいる信に、蒙恬が囁く。この部屋には自分たちしかいないというのに、それでも誰にも聞かれまいと細心の注意を払っていた。

恐らく桓騎軍の中では情報操作が行われているだろうという予見も伝える。

信は誰が見ても分かるほど動揺しており、その黒曜の瞳にうっすらと涙を浮かべていた。

すぐに処罰される訳ではないことは理解しているようだが、自分が同士討ちをした現実を受け入れられないでいるようだった。

「…桓騎は、今回のことを上に告げるつもりはないらしい」

蒙恬がそう言うと、弾かれたように顔を上げた。

「なんで…」

それは自分にも分からないと蒙恬が小さく首を振る。
口止めのために何かを要求して来る訳でもないのだと言えば、信の眉間にますます皺が寄った。

「…殺された仲間にも、殺した信にも、興味がないんだろう。恨んでるなら自分で手を下すか、すぐに上に告げて処罰してもらってたに違いない」

あくまで予測だが、桓騎が信の同士討ちの罪を口外しなかった理由を述べると、信は安堵したような、納得いかないような、複雑な表情を浮かべていた。

「…でも、あくまで予見だ。もしかしたら、桓騎は面白半分でこっちの様子を伺っているだけかもしれない」

あいつならやりかねないと言葉を付け足せば、信が固唾を飲み込んだのが分かった。

桓騎の非道な行いは秦軍の中でも有名だ。今はこちらの様子を楽しんで見ているだけなのかもしれない。

桓騎の機嫌一つで同士討ちをした罪が暴かれることになるのだと言えば、信は青ざめて体を震わせることしか出来ないようだった。

自分の処罰よりも、無関係の仲間たちを巻き込むことを恐れているのだろう。高狼城の時も、彼はそうだった。

怯え切っている信を安心させるように、蒙恬が優しい笑みを浮かべる。

「…俺が動けば、桓騎の口を封じることが出来る」

その言葉に嘘偽りはなかった。祖父に恩を感じている桓騎を黙らせる手段など、いくらでも持っているのは事実だった。

「信だけじゃなくて、飛信隊そのものを助けることできるってことだよ」

「………」

諭すように告げても、信はわずかに眉根を寄せるばかりだった。こちらの言葉を疑っているのだろう。

しかし、自分の命はともかく、大切な仲間たちを助ける術を持たない彼は、諦めて蒙恬を頼るしかないのだと分かっているはずだ。

その背中を押してやるために、信自らの意志で決断させるために、蒙恬は本題を切り出した。

「俺と取引しない?」

心地よく響いた声が、信の鼓膜を震わせる。女ならば・・・・腰が抜けてしまいそうになるほど甘い声だった。

「…なんのだよ」

顔を強張らせてはいるが、取引内容に興味を示したことに、蒙恬が口角をつり上げる。

「信は今から俺の言うことを聞く。俺は桓騎に今回のことを黙らせておく。信と飛信隊を守る最善の方法だと思うけど?」

「………」

その言葉を信用して良いのかと、信は蒙恬ではなく、自分自身に問い掛けているように見えた。

安心させるように蒙恬は双眸を細める。

「万が一のことがあっても、高狼城の時・・・・・みたいに一晩の投獄くらいで済むようには交渉するよ。桓騎軍の素行の悪さは誰もが知っているんだから、信が剣を抜いたとしても誰も怪しむはずがない」

過去のことを連想したのか、信がはっと息を飲む。

「…まさか、俺が軽罰になったのって…」

何年も前になる高狼城陥落の後、降伏した民たちに残虐非道な行いをした乱銅千人将を斬り捨てた時のことを思い出したのだろう。

返事の代わりに、蒙恬は穏やかな眼差しを向けた。

あの時、なぜ軽罰になったのか信は疑問を抱いていたが、まさか蒙恬が裏で手を回していたとは思わなかったようだ。

祖父と父の威光を受け継ぐ蒙恬の立場ともなれば、情報操作など容易いのだと信はようやく理解したらしい。

「……、……」

しかし、その瞳はまだ揺らいでおり、蒙恬との取引に応じるべきか悩んでいることが分かる。

 

 

この様子では、返事は当分先だろう。多少、強引な手段を取ってでも決断させなくてはと、蒙恬はわざとらしく溜息を吐いた。

「…俺さあ、待たされるの嫌いなんだよね」

わざと低い声で呟くと、信の瞳に動揺が浮かぶ。

「それじゃあ残念だけど、桓騎が上に同士討ちの件を告げても、関わらないでおくよ」

胸の内ではほくそ笑みながら、蒙恬はその場を去ろうと立ち上がった。

「待てっ…待って、…」

背を向けると、すぐに信が蒙恬の腕を掴む。

「なに?」

笑いを堪えながら冷たい視線を向けると、信は縋るような眼差しを向けている。
信は狼狽えながらも、意を決したように頭を下げた。

「…飛信隊を…助けて、ください」

絞り出した声は情けないほど震えていて、その声を聞くだけで信が今にも泣き出してしまいそうなのが分かった。蒙恬の腕を掴んでいる手も小刻みに震えている。

「取引に応じるってこと?」

思わず緩んでしまいそうになる口元を制し、蒙恬が問い掛ける。信は青ざめたまま頷いた。

「じゃあ、俺の言うこと、聞いてくれるんだね?」

信はもう一度頷いたが、確信が欲しくなった蒙恬は嘲りを含んだ笑みを向ける。

「返事は?」

自分の意志で選択したことを知らしめるために、蒙恬は返事を確認した。

「は、い…」

弱々しいが、それは確かに了承の返事だった。すっかり気分を良くした蒙恬は、穏やかな眼差しを向ける。

「…じゃあ、今すぐ脱いで?」

命じると、信が大きく目を見開いたので、蒙恬は小首を傾げた。

「脱いでって言ったんだけど、聞こえなかった?」

「…なんで…そんなこと…」

「俺の言うこと聞くんでしょ?」

「…理由を、聞かせろ」

まさか理由を問われるとは思わなかったが、蒙恬はすぐに答えた。

「信が女かどうか確かめるため・・・・・・・・・・・

ひゅ、と信の口から笛を吹き間違ったような音が上がった。

 

隠し事

同士討ちの事実を告げた時よりも驚愕している信に、蒙恬があははと笑った。

「まあ、その反応見ちゃったら、もう答えを聞いたようなものだし、そもそも寝てる間に全部見させてもらった・・・・・・・・・・んだけどさ」

「っ…」

咄嗟に信が着物の襟合わせを押さえる。いつもさらしで押さえ込んでいた胸の膨らみが、今は何にも覆われていなかった。

「なんで隠してたの?」

小首を傾げた蒙恬が怯えさせないように、穏やかな口調で問う。しかし、その双眸からは怒りの色が見て取れた。

俯いて視線を逸らした信は冷や汗を浮かべていた。

「別に…隠してた、ワケじゃ…」

途切れ途切れに言葉を紡ぐと、蒙恬がわざとらしい溜息を吐く。

「隠してただろ?」

怒りを隠し切れていない低い声でそう言うと、蒙恬は信の胸倉を掴み、ぐっとその体を引き寄せる。

着物の下にある、女にしか作れない柔らかい胸の谷間に視線を下ろし、それから近い距離で信を睨みつけた。

怯えたように信の瞳が揺れたのが分かり、蒙恬は追い打ちを掛けるように言葉を紡いでいく。

「さらしで胸を潰して、口調や仕草まで男を真似てさ。…すっかり騙された」

騙されたという言葉を聞いた信は、体の一部が痛んだように、きゅっと眉根を寄せた。

「王賁には抱かれてたくせに、俺にはぜーんぶ秘密だったんだ?」

「―――」

どうして、と信の唇が戦慄く。声が喉に張り付いており、その唇からは掠れた吐息が掻い潜るばかりだった。

胸倉を掴んでいた蒙恬の手が、信の薄い腹をそっと擦った。

「…もしかしたら今頃、王賁の子を抱いてたかもしれないんでしょ?」

目を見開いた信が、血の気のない顔で呆然としている。

「可哀相だね。信も、赤子も、救われなくて・・・・・・

同情するように、しかし、無邪気な笑みを浮かべながら、蒙恬は信の耳に囁き入れる。

「ッ…!」

瞬間、腹を撫でている手を振り払われた。
奥歯を噛み締めた信が蒙恬を睨みつけるが、弱々しい瞳から、それが虚勢であることは分かり切っていた。

「ほんと、可哀相」

言葉では同情するものの、乾いた笑いが込み上げて来る。

「っ…、……」

食い縛った歯の隙間から、嗚咽が零れている。これ以上ないくらい強張った顔をしている信を見て、蒙恬はゆっくりと目を細めた。

彼女の腹の中に眠っていた尊い命が、もうそこにはない・・・・・・・・・ことを、蒙恬は知っていたのだ。

 

 

「なんで…」

絞り出すような声を聞き、蒙恬は肩を竦めるようにして笑う。

みるみるうちに彼女の双眸から涙が溢れ出したのを見て、思わず手を伸ばして、その涙を拭っていた。指に付着した涙を舌で舐め取り、塩辛い味に苦笑を深める。

「俺、隠し事されるの嫌いだから」

伝令を受けて、桓騎のもとから放心状態でいる信を連れ戻した後、蒙恬は血塗れの着物を脱がせようとして、信がが女であることを知った。

同士討ちの件を内密にするために、天幕に他の者を出入りさせなかったことは幸いだったと言える。

咸陽へ帰還した後、蒙恬はすぐに信の屋敷を出入りしているという医者を訪ねた。

信の秘密を知っている・・・・・・・・と告げると、医者は信が身籠っていたこと、しかし、その命が芽吹かなかったことを教えてくれた。此度の戦ではなく、前の戦を終えた後、それが発覚したらしい。

それが誰との子であるかは教えられなかったが、その話を聞いた時、蒙恬はすぐに王賁との子であることに気付いた。

王賁が信を呼びつけていたことや、虚ろな瞳で彼女が天幕から出て来た姿を幾度も見ていたことから、答えは必然的に導くことが出来たのだった。

今までずっと知らずにいた信の秘密を、蒙恬は彼女が眠っている間に全てを知り得た。

しかし、王賁にその体を暴かれることを、彼の子を身籠ったことを、その命が失われたことを信はどう思っているのだろう。それだけは分からない。

医者によると、信が自ら堕胎薬の類を口にしただとか意図的なことはなく、戦場に立つ侵襲が原因だったのだという。それ以上は何も教えてくれなかった。

馬に乗ることや怪我よる出血、戦でかかる侵襲は、弱い命には負担でしかない。当然だろうと蒙恬は考えた。

 

成立

それまで強く奥歯を噛み締めて黙り込んでいた信は、憤怒の色を宿した瞳で蒙恬を睨みつけた。

「…本当に、飛信隊を助けてくれるんだな?」

「うん。信が取引に応じるなら」

凄まれても怯むことなく、蒙恬はあっさりと頷いた。
信は一度俯いて、すんと鼻を啜ってから、ゆっくりと寝台から立ち上がると、着物の帯に手を掛けた。

もう正体を知られているとはいえ、取引はまだ続いている。健気にも信は仲間たちを処罰から守るために、蒙恬の命令通りに着物を脱いだのだった。

帯と着物が床に落ちて、眠っている間に幾度となく見た女の身体が露わになる。しかし、信が自らの意志で着物を脱いだことに大きな意味があった。

程良い胸の膨らみや、典麗な身体の曲線、すらりとした四肢。いつもは着物や鎧で覆われていた、隠されていた本当の姿だ。

数多くの戦場を駆け抜けて来た身体には多くの傷がついていたが、無駄な肉は微塵もなく、どこも引き締まっている。

彼女自身が、この戦乱の世の生の象徴のように見えて、今まで見て来たどの女性よりも美しいと思った。

王賁の子を孕んでいた時は、その薄い腹も少しは膨らんでいたのだろうか。

その身が既に王賁によって汚されていることは知っていたが、それでも生唾を飲み込んでしまうほど美しさは衰えていない。

なぜこんなにも女性としての魅力が詰まった彼女を傍で見て来たのに、その正体に気づかなかったのだろう。

信の体を見つめながら、蒙恬はつい溜息を吐いていた。

「…満足かよ」

何も話し出さない蒙恬に痺れを切らしたかのように、信が低い声で問い掛ける。

「これでおしまいだと思ってる?」

弾かれたように信が顔を上げた。

今から俺の言うことを聞く・・・・・・・・・・・・っていう条件だったはずだけど」

先ほど提示した条件を再び口にすると、信の顔があからさまに引き攣った。まさか着物を脱ぐことだけが条件だと思っていたのだろうか。

「それじゃあ、次は何してもらおうかな」

苦笑を深めながら、次の指示を考えていると、信がみるみるうちに青ざめていった。

 

 

「おいで、信」

寝台に腰掛けたまま、蒙恬は信を手招く。
彼女はしばらくその場から動けずにいたが、もう一度「おいで」と声を掛けると、ゆっくりとこちらへ歩み寄って来た。

手を差し出すと、信は少し躊躇ってから、その手を取った。

緊張のせいか、冷え切っているその手を握ってやってから、蒙恬は寝台に腰掛けたまま信の体を抱き締めた。

柔らかい女の肌の感触を手の平いっぱいに感じ、目の前にある彼女の腹に頬を押し当てた。

「…ここに、王賁との子がいたんだ」

上目遣いで見上げると、信の強張った顔が見えた。

「王賁は全部知ってたの?」

きゅっと信が唇を引き結ぶ。

「…教えて・・・?あいつは全部知ってたの?」

これは取引の範囲の内だと信を見上げながら、蒙恬は臍の辺りに頬をすり寄せた。
少し間を置いてから小さく頷いたのを見て、へえ、と蒙恬の頬が緩んでしまう。

「それでいてあんな態度を続けられるなんて、さすが王賁だね」

信を妻にするつもりもなければ、身籠った子を抱くことが出来なかったことにも何の興味も抱いていないのだろう。

自分の知らないところで王賁が信に優しい言葉を掛けている姿など想像も出来ないのだが、そんなことをしていたのなら、信ももう少しは安らいだ表情をしていたに違いない。

後ろ盾を失くし、弱い立場になった彼女に凌辱を強いる友人を今さら蔑むことはしないが、もう少し違った方法で愛してやれなかったのだろうかと思った。

いや、王賁はそもそも信を愛する対象には捉えていないだろう。信は王賁にとって、ただ都合の良い道具だったのだ。

背中に回していた手をゆっくり下げて、女性らしい丸みのある尻に触れると、信の体がぎくりと硬直した。

「俺ならそんな酷いことしないのに…」

囁きながら薄い下腹に唇を寄せる。

「ひッ、…」

女性らしい曲線が作られている尻から内腿を指を滑らせ、足の間にある淫華を撫でると、信が息を詰まらせたのが分かった。

其処は少しも濡れていなかったが、蒙恬は構わずに指を前後に動かした。

「ッ、ん…」

女の官能を司る部位なのだから、其処を刺激されて感じない女などいない。信であっても例外はない。

逃げようとする腰を反対の手で抱き押さえ、蒙恬は花びらの合わせ目を指でなぞりながら信を見上げた。

「俺のものになってよ、信」

その言葉を聞いた信は、怯えたように瞳を揺らがせる。
少しずつ蜜を溢れさせて来た淫華の割れ目を押し開いて入口をくすぶると、信が息を飲んだのが分かった。

「ッ…ふ、…ぅ…」

手で口を押さえ、溢れそうになる声を堪える彼女の姿を見て、王賁にどれだけ酷い目に遭わされても、こんな風に声を堪えて涙を流していたのだろうかと考えた。

「俺が信のことを守ってあげる。だから、…ね?」

子供に言い聞かせるような優しい声色を向けながら、小首を傾げる。

今まで相手にして来た女性ならば、たちまち顔を真っ赤にして自分の手を取っていたというのに、信は違った。

口に蓋をしたまま、首を横に振って蒙恬の誘いを拒絶したのだ。

 

成立 その二

まさか拒絶されるとは思わず、蒙恬は呆気にとられた。

「ひッ…!」

蜜でぬるぬると滑る淫華に、指を根元まで突き挿れると、信の体が大きく跳ねた。

「飛信隊を助けて下さいって言ってなかったっけ?」

拒否権など最初からないのだと思い知らせるために、蒙恬は飛信隊の存在をちらつかせた。
思い出したように、信が悲痛の表情を浮かべる。

「ぅう…ふ、ぅッ…」

中で指を動かし続けていると、信の内腿が震え始めた。俯いて体を折り曲げようとするのと見る限り、そろそろ立っているのが辛くなっているらしい。

「ねえ、取引の内容なんだっけ?」

最奥にある女にしかない臓器を優しく撫でながら、蒙恬が穏やかな口調で尋ねた。

「ん、んんっ、ふ…ッぅ…」

小刻みに身体を跳ねさせている信が、指の間から苦しそうな声を上げる。
返事をもらえないことから、聞こえていないのだろうかと苛立ち、蒙恬はわざとらしく溜息を吐いた。

淫華から指を引き抜くと、蒙恬は信の腕を掴んで引き寄せた。

「あっ…」

立っているのもやっとだった信は呆気なく膝の力が抜け、蒙恬の膝の上に座り込んでしまう。

急に両腕で抱き締められ、信は戸惑ったように瞳を泳がせた。蒙恬は信の耳元に唇をそっと寄せる。

「…飛信隊を助けたいんだろ?」

その言葉に、信は身体を震わせながら、何度も頷いた。

「じゃあ、俺の言うこと、聞けるよね?」

確認するように問い掛けると、信が涙を浮かべた瞳で見上げて来る。情欲を煽るその弱々しい瞳に屈することなく、蒙恬は返事を待った。

「は、い…」

信の返事を聞き、蒙恬は満足げな笑みを浮かべる。

膝に座らせている彼女の身体を強く抱き締め、蒙恬は首筋に顔を埋めた。

他の女性を抱く時にはこんな甘えるような仕草はしないのだが、信にはどんな自分を受け入れてもらいたかったし、どんな彼女でも受け入れる自信が蒙恬にはあった。

 

 

「信」

顎に指をかけて顔を寄せると、信が緊張したように身を強張らせたのが分かった。

構わずに唇を重ねると、信の手が蒙恬の着物を遠慮がちに掴む。やめてくれと制止しているのだろうが、甘えているようにも思え、蒙恬は唇を交えながら苦笑した。

何度も顔の向きを変えて、彼女の柔らかい唇の感触を味わいながら、今でも信が男だと思い込んでいたのなら、こんな風に卑怯な取引を持ち掛けることはなかっただろうと考える。

「うっ、んん…」

口づけながら、彼女の柔らかい胸を揉み込む。

もしも王賁の子が無事に生まれていたのなら、赤子に吸わせていたに違いない。そんな姿は見たくないと、独占欲に満たされた心が拒絶をしていた。

信の身体を抱き締め、蒙恬は膝の上に座らせていた彼女の身体を寝台へと押し倒した。

「あ…」

どこか怯えた表情をしている彼女を安心させるように、蒙恬は静かに笑んだ。

ぼろぼろに傷つき、凍てついた彼女の心を慰めるには、優しさで溶かすしかないだろう。
頬をそっと撫でてやり、蒙恬は再び彼女の耳元に唇を寄せる。

「愛してるよ、信」

今まで抱いて来た女には一度も言わなかった愛の言葉を囁く。

無意識で囁いた愛の言葉に驚愕したのは、信だけではなく、蒙恬自身もであった。

 

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