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フォビア(王賁×信)番外編①

フォビア4
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  • ※信の設定が特殊です。
  • 女体化・王騎と摎の娘になってます。
  • 一人称や口調は変わらずですが、年齢とかその辺は都合の良いように合わせてます。
  • 王賁×信/ヤンデレ/執着攻め/バッドエンド/All rights reserved.

苦手な方は閲覧をお控え下さい。

本編はこちら

 

身分差

本編で割愛したシーンです。

 

馬陽で討たれた王騎の弔いの儀を終えた後、信は屋敷の一室に引き籠る日々が続いていた。

養父を救えなかった自分の弱さと、母の仇を討てなかった憎しみが、信の中に深い杭となって残っている。

王騎の私室には、生前に記したのであろう、自分が戦で命を失った後の信に処遇についてが記されていた。後ろ盾を失った信が、王一族を追放されることになると王騎は分かっていたのだ。

木簡には、信を正式な跡取りして決めてあることが遺言として記されていた。

この遺言の効力により、信が王一族から追放されることは免れたのだが、信には、王一族に対して何の未練もなかった。

ただがむしゃらに天下の大将軍として中華全土に名を轟かせていた養父の背中を追い掛けていただけで、名家に取り入るなんてことに、興味などなかった。

そんな立ち回りが出来るようだったら、王騎に養子として迎えられる前に、マシな買い手を見つけて取り入っていたかもしれない。

もしも王騎が遺言を残していなかったとしても、信は一族追放の命を受けたのならば大人しく従うつもりだった。

王騎のいない一族に、自分が留まる理由など何もなかった。それに、名家のしがらみに縛られるのは性に合わない。

しかし、王一族に留まるというのが王騎からの遺言ならば、信は大人しく従うしかなかった。

 

 

王賁が屋敷に赴いたのは、未だ信が王騎の悲しみから立ち直れずにいる時だった。

弔いの儀でも、彼は信に声を掛けることはなかったのだが、家臣たちからの目もあった手前、掛ける言葉に悩んでいたのかもしれない。

もとより他人を気遣った言葉を並べられるような男ではないと信も分かっていたし、王騎が討たれた事実は覆らない。

わざわざ彼が屋敷まで来た理由が分からない。腑抜けた自分を笑いに来たのだろうか。

しかし、気分が乗らないという理由だけで、王家嫡男である彼を追い出す訳にもいかない。信は王賁を客間に通すよう侍女たちへ指示を出した。

それまでは寝台の上で丸まっていた信だったが、最低限の身だしなみを整えてから部屋を出た。

客間の扉を開けると、相変わらず王賁は視線だけをこちらに向けて来た。

上質な着物に身を包んでいるが、戦場にいる時のような鋭い眼差しはいつだって健在だ。背中に武器を構えていないというのに、何か機嫌を損ねる発言をすればすぐに叩き斬られてしまいそうな威圧感も備わっていた。

王賁とはそういう男だ。いつだって隙を見せることがない。

「…なんか用か」

向かいの席に腰を下ろしながら、信が素っ気なく問い掛ける。思えば王賁の方から屋敷を尋ねて来るのは、これが初めてだった。

伝えたいことがあるのなら伝令を使えば良いし、事前の訪問も知らせずに突然やって来たことに、なにか用があったのだとしか考えられなかった。

蒙恬のように自分の気分で時間を消費するような男でないことも信は分かっていたし、だとすれば尚更、屋敷にやって来た理由が気になった。

「…王騎将軍の遺言、貴様が見つけたのか」

腕を組んでこちらを見据えている王賁の眼差しは相変わらず鋭かった。睨みつけているといった方が正しい。

「俺じゃない」

臆することなく、淡々と答えた。
王賁に睨まれるのは初めてではなかったし、下賤の出である自分が名家の一員に加わるのを非難されていることにも慣れていた。

「遺言を王家に提示したのは、騰だ。俺も遺言の存在を知らなかったし、たぶん、騰は父さんから言われてたんだろうな」

弔いの儀の終えた後、王騎軍の副官である騰は、本家当主である王翦のもとを訪れて王騎の遺言が記された木簡を渡したのだという。

遺言があると知らされたのは、騰が王一族に木簡を渡した後のことで、きっとそれも王騎からの命令だったのだろうと思った。

「…俺が先に見つけたなら、とっとと燃やしてた」

その言葉通り、信は先に養父の遺言を見つけていたのなら、それをなかったことにするつもりだった。

そして、それを王騎は分かっていたからこそ、信には何も告げずにいたに違いない。

追放を命じられるよりも先に、自ら王一族を去ろうと決意する娘の企みを、王騎は見事なまでに阻止したのである。

 

身分差 その二

「………」

言葉を選んでいるのか、王賁は急に押し黙った。

養子として引き取られた頃から信は名家という家柄に一切の興味を示さなかったし、それは今も変わらない。王一族に対して、何の未練もないのだろう。

王騎からの遺言を燃やそうと考えていたという言葉が何よりの証拠だ。

「王騎将軍が討たれたのに、俺が一族に残ってることを気に食わないのは分かってる」

王賁は自分の考えを言葉に出す性格ではなかった。
言葉数が少ないのと、その眼光のせいでいつも怒っているように感じてしまうが、腐れ縁とも言える長い付き合いである信は、彼の表情を見ればそれとなく気持ちを察することが出来るようになっていた。

もちろん気持ちを代弁すれば「下僕出身の分際で生意気だ」と罵られるので、言葉にすることはしなかった。しかし、養父の死が絡んでいる今だけは許されるだろう。

「俺が目障りなのは分かってる。俺だって、遺言がなけりゃ、喜んで王一族から抜けてた」

自虐的な笑みを浮かべながら信が言う。心中穏やかでないのは王賁だけではなく、彼女もだった。

「…戦以外何も知らぬ貴様が、王一族を抜けたとして、どう生きるつもりだ」

まさかそのような問いを投げ掛けられるとは思わず、信は瞠目した。
声色から察するに、心配しているつもりは微塵もないようだ。だとすれば、ただの興味だろう。

信が女であることを知っているのは、王一族の中でも、当主の王翦と、嫡男の王賁くらいだ。王一族でも大半の者が信を男だと信じて疑わない。

初陣に出された時、王騎から性別は偽っておいた方が良いと言われ、それからずっと信は男だと性別を偽って生きていた。

幼い頃から王家の出入りをしていた信は、年齢が近い王賁と頻繁に手合わせをしては、好敵手として切磋琢磨し合っていた。

女が戦に出るのかと王賁に罵られたこともある。
きっと王騎が性別を偽るように指示をしたのは、そういった心無い言葉を投げられるのを避けるためだったのかもしれない。

何度も手合わせを続けていき、互いに将として戦に出るようになってからは、女が戦に出ることに関して王賁は何も言わなくなっていた。

口止めをしたことはないが、王賁が信の性別を周りに告げたことはない。

当主である王翦には事前に王騎が口止めをしていたのか、それとも王翦自身の判断なのか分からないが、彼も信の性別を広めるようなことはしなかった。恐らく、興味がないのだろう。

「んー…」

信は背もたれにどっかりと身体を預け、天井を見上げながら考えた。

「…俺を邪魔だと思ってる奴はお前以外にもたくさんいるだろ」

自虐的に笑んだ後、

「王翦将軍に相談したら、適当に嫁ぎ先でも見つけてくれるんじゃねえか?」

将以外の生きる道を知らない信が、絶対に選ばないだろう方法を冗談めいて言うと、王賁から向けられている眼差しがより鋭くなる。

勢いよく立ち上がった王賁が大股で近づいて来たかと思うと、乾いた音が鼓膜を激しく揺さぶり、頬に焼けるような痛みが走った。

 

 

「え…?」

いつの間にか視界が傾いており、床に倒れ込んでいた。王賁に頬を打たれたのだと気づくまでには、しばらく時間がかかった。

頬を打たれた衝撃のあまり、まだ鼓膜が震えている。

痺れるような痛みと耳鳴りに混乱していると、王賁から今まで見たこともない冷え切った眼差しを向けられた。

憎悪が込められたその視線に、信は狼狽えてしまう。

「な、なに、すんだよ…いきなり…」

王賁に向けられている瞳がいつもより鋭いのは先ほどからずっと感じていたのだが、彼の機嫌を損ねるような言動をした覚えなどなく、信は頭に疑問符を浮かべることしか出来ない。

頬を打たれた拍子に口の中を切ってしまい、苦い鉄錆の味が舌の上に広がった。熱を帯び始めた頬は未だ痺れており、耳鳴りも止まない。

「いい加減に立場を弁えろ」

身を乗り出した王賁が低い声でそう囁き、床に倒れ込んだままの信の胸倉を掴んだ。

「は…ぁ…?」

こんな風に王賁から凄まれたのは、幼い頃から一度もなかったので、信は困惑する。

「王騎将軍亡き今、お前は王一族の中で邪魔な存在でしかない」

思わず身震いしそうなほど、怒気が籠もった低い声だった。しかし、信は怯むことなく王賁を真っ直ぐ見据える。

少しでも目を逸らせば、彼の怒気に押されて負けてしまう気がした。
胸倉をつかんでいる王賁の腕を振り払いながら立ち上がり、両足にぐっと力を入れる。

「…俺が、王一族の中で邪魔な存在だなんて、王騎将軍が亡くなる前からそうだったろ。んなこと言われなくても分かってる」

「分かっていない」

何が言いたいのだと彼を睨みつける。
王賁の目つきは少しも変わらない。自分を殺したいほど嫌悪しているのは明らかだった。

「お前は下僕出身の分際で、王家に取り入ろうとしている卑しい存在でしかない」

その言葉を聞いた信のこめかみに鋭いものが走った。相手が王賁でなければ、最後まで言葉を聞かずに殴り飛ばしていたかもしれない。

生まれも立場も自分より低い信が、同じ舞台に立っていることが気に食わないらしい。
怒りを統制するために作った拳を震わせながら、信は長い息を吐いた。

いつまでも王賁に言われっぱなしでいるのは癪に障る。挑発するように引き攣った笑みを浮かべた。

「そんなに俺のことが気に食わねえくせに、嫡男様のご権限では俺一人を追放することも出来ねえんだな」

立派なお立場で。

嘲笑いながら、血の混じった唾を吐きかけてやるつもりだった。しかし、信が最後まで言葉を紡ぎ切る前に、記念すべき二発目の殴打が飛んで来た。

 

身分差 その三

視界が真っ白に染まり、再びその場に倒れ込んでしまう。

「う”…」

先ほどよりも強力な殴打だったことで、立ち上がろうとしても体に上手く力が入らなかった。一切の加減をされず、本気で殴られたのだと分かった。

鼻血が伝う感触があったが、それを拭うために腕を持ち上げることもままならない。

「………」

信は目だけを動かして、王賁を見上げる。
自分よりも立場の低い女に罵られた王賁が、どのような表情を浮かべているのか、興味があった。

表情は崩れていなかったものの、こちらに向けている瞳は相変わらず冷たいままだ。

「はッ…つまんねえの」

余裕のない表情をしているのだとばかり思っていたので、残念だとわざとらしく肩を落とした。

謝罪をされることはないと分かっていたが、王賁が一向にその場から去る気配も見せないので、まだ何か話すことがあるのかと信は陰鬱になった。

「おいっ?」

未だ床に倒れ込んだままの体に王賁が馬乗りになって来たので、信は三発目の殴打が来るのかと身構えた。

しかし、拳が飛んで来ることはなく、王賁が何か言おうと唇を戦慄かせたのが見えた。しかし、言葉が紡がれることはなかった。

まるで何かを諦めたかのように口を閉ざした王賁を見て、信は小首を傾げた。

「…王賁?」

訝しげに眉根を寄せて声を掛けると、再び視界が揺れた。

「うッ…!」

力強く肩を掴まれたかと思うと、今度は頬ではなくて背中に鈍い痛みが走る。自分を見下ろしている王賁と目が合い、彼に押し倒されたのだと頭が理解した。

「…なんだよ、退けよ」

自分に馬乗りになっている王賁を押し退けようとするものの、彼は普段以上に目を吊り上げたまま何も話さないし、動こうとしない。

何か言いたいことがあるのならば、普段のように罵れば良いものを、王賁は固く唇を引き結んでいた。

王賁は口数が多い方ではない。昔からずっとそうだ。

必要ないと思ったことは一切口を挟まないし、それでも罵倒をして来るということは、腹を立てている時だけである。

名家の嫡男として生まれたことに誇りを抱いており、下賤の出である信には、初対面の時からずっと厳しい態度を貫いていた。

武の才を見込まれて拾われた信は、名家に取り入ろうなどと思ったことは一度もない。

それを告げても、自分を気に入らない王賁の態度が変わる訳でもなかったし、きっと自分が王一族にいる限り、彼から疎まれることになるとも分かっていた。

そして目指す先が同じ天下の大将軍であることも、疎まれる要因の一つだろう。

「……もういい」

何かを諦めたかのように、王賁がそう言い放った。
不機嫌に目をつり上げていた彼の瞳が、哀愁を漂わせる色を浮かべたのを見て、信は薄口を開ける。

彼が何を諦めたのか、その前に何を言おうとしていたのか、信には分からなかった。

 

教示

王賁の両手が動いたので、信は反射的に身構えた。また殴打が飛んで来るのだと思った。

しかし王賁の手は、両腕を交差させて顔を庇っている信の両腕をすり抜けて、彼女の青い着物を掴む。

「何すんだよッ!?」

襟合わせを強引に開かれて、信は瞠目した。
その反応から、これから何をされるのか微塵も予想が出来ずにいる彼女を見て、王賁は舌打った。

名も顔も知らぬ男のもとに嫁ぐ道を示しておきながら、純情を装っているその態度に、ますます憤怒が燃え盛る。

確信はなかったが、信が男の味を知らぬことを、王賁は何となく予想していた。

色情に一切の興味を示さない信が男に抱かれている姿を想像したくなかっただけなのかもしれない。

それが独占欲だと気づく前に、王賁は彼女の帯に手を掛けていた。

「はッ?」

間抜けな声を上げた信が薄く口を開けて、解かれていく帯を見つめている。
解かれた帯を結び直される前に、王賁は彼女の手の届かない場所へ帯を放り投げる。

少し遅れてから、意図を察したのか信の顔がみるみるうちに真っ赤になっていった。

「は、はあッ!?何してんだよ!」

開いた襟合わせを強引に押さえ込みながら、信は王賁に怒鳴りつけた。
凄まれても怯むことのない王賁の手が再び伸びて来る。信がその手を押さえつけるよりも、王賁が彼女の首を締め上げる方が早かった。

「ぐッ…!」

急に気道を圧迫され、呼吸を阻まれたことに、信は目を白黒させている。
その手を外そうともがく信を見下ろす王賁の瞳は、暗く淀んでいた。

「がっ…ぁ…」

目の前が白く霞んでいき、このままではまずいと手首を引っ掻いて抵抗を試みる。
しかし、首を締める手の力が少しも緩まることはない。王賁が本気であることを察して、信は背筋を凍らせた。

意識の糸を手放す寸前で、ようやく手を放されて、強制的に呼吸を再開させられた信は激しくむせ込んだ。

まだ呼吸が整っていないうちに、容赦なく前髪を毟られて、王賁が顔を近づけて来る。

「これ以上無駄口を叩かぬよう、立場を弁えさせてやる」

「っ…」

怒気の込められた低い声に、信の体は竦み上がった。怯えた瞳で見上げられると、王賁の中にある加虐心に火が点いた。

中途半端に脱がされていた着物を強引に広げられて、信はまさかという表情を浮かべていた。

自分の体に跨って、腹の辺りに硬い何かが当たる。
王賁の足の間にある男の象徴が、情欲を誇張していることに気付き、信は顔から血の気を引かせた。

「ううッ」

悪罵を叫ぼうとした途端、再び頬を打たれてしまい、口の中に血の味が広がる。先ほどから何度も殴られ打たれた頬が赤く腫れ上がっているのは分かっていたが、もはや痛覚は麻痺していた。

「うッ…!」

怯んで抵抗が出来なくなった隙に、王賁が身を屈めて首筋に噛みついて来たので、そういえばこいつは、蒙恬のように冗談を言う男じゃなかったと思い出した。

まさか王賁にこのような行為を強いられるとは夢にも思わなかったし、彼から女として扱われたのは、これが初めてだった。

 

 

王一族の嫡男とあろう男が、女に困っているはずがない。だからと言って、何のために自分にこのような行為を強いるのか、信には少しも理解が出来なかった。

彼のために喜んで足を開く娘などごまんといるだろうし、金に不自由している訳でもないのだから娼館に行くことだって出来るだろう。欲望の捌け口などいくらでもあるはずだ。

それなのに、王賁がよりにもよって自分を選んだのは、本当に立場を弁えさせるためなのだろうか。

王一族の誇りを受け継ぎ、信の知る限り、王賁は誰よりも自尊心の高い男だ。

自分の減らず口を黙らせるためにこのような行為を強いるということは、余程頭に来ているのだろう。

下賤の出でありながら王騎の養子として引き取られた手前、確かに嫡男である王賁には頭を下げるべきなのかもしれない。

しかし、名家のしきたりなど、養子として引き取られた時から興味がなかった。ひたすらに武功を挙げて上り詰めて、父のような大将軍になることだけが信の全てだった。

「こ、のッ…!」

このまま好きにされてたまるかと、信は歯列を剥き出し、王賁に憎悪の視線を向けた。

凄まれても王賁は表情を変えず、少しもやめる気配を見せない。彼の手が胸を覆っていたさらしを外しにかかったところで、いよいよ信の中で何かがふつりを切れた。

「おい、王賁」

低い声で呼びかけて視線が合うと、すかさず血の混じった唾を王賁の顔に向かって吐きかけた。

「ッ…!」

吐きかけた唾は王賁の右目に当たり、王賁が顔をしかめる。僅かに腕の力が緩んだ。

「放せッ!」

怯んだ隙をついて、信は王賁の腹を蹴り上げた。咄嗟の抵抗だったので、勢いはつけられなかったものの、油断したところに入ったそれは大分堪えたらしい。

彼の下から抜け出すことに成功すると、鳩尾を押さえている王賁を横目に、信は立ち上がった。

着物の乱れなど気にする余裕もなく部屋を出ようと駆け出す。部屋さえ出てしまえば、家臣たちの目もあることから、きっと執拗に追っては来ないはずだ。

「うッ!?」

しかし、一歩目を踏み出した時、左足首を思い切り掴まれて、信は顔面から派手に転倒してしまう。一体今日だけで何度顔面を負傷したことだろう。

思い切り鼻を打ち付けたせいで悶絶していると、上から影が落ちて来て、信はぎくりと体を強張らせた。

うつ伏せの状態で視界が遮られているにも関わらず、王賁がこれ以上ないほどの殺意を向けていることが分かった。

先ほどの蹴りの仕返しだと言わんばかりに、王賁の踵が背中に振り下ろされる。

「がッ…」

あまりの衝撃に、呼吸が抑制され、信は目を白黒させた。

 

最終警告

体を反転させられた後、王賁が胸の辺りに跨って来た。このまま一方的に殴られるのだろうかと信がむせ込みながら、痛みに構える。

しかし、王賁の手は拳を作ることなく、先ほど奪い損なったさらしを外しに掛かっていた。
口の中で血の味を感じながら、信が鼻で笑う。

「はっ…女一人抱くのに、ここまでしなきゃならねえなんて、お前ってほんと、不器用だよな」

皮肉を込めてそう言うと、王賁が鋭い眼差しを向けて来る。

「黙れ。誰が貴様を女だと認めた」

「話逸らすっつーことは図星か?蒙恬から指南でも受けろよ、この欲求不満野郎」

腫れ上がった頬を緩ませ、引き攣った笑みを浮かべながら信が返す。

「ぐ…」

王賁からの反論はなかったが、さらしを外されて露わになった胸をもぎ取られるように力強く掴まれて、思わず呻き声を上げてしまった。

信の苦悶の声に満足したのか、今度は量感のある胸の柔らかさを確かめるように、五本の指が食い込んで来る。

痛みを与えてから、何度か指を動かしてから、胸の芽を強く摘ままれて、信は脇腹をくすぐられるような、むずかゆい感覚に襲われた。

「ッ、ん…」

思わず洩れた小さな声は、痛みを堪えるためのものではない。王賁が鼻で笑った。

「貴様を女だと認めるなら、誰にでも軽々と足を開く売女娼婦としてだな」

侮辱以外何でもないその言葉を投げられ、信の瞳に憤激が宿る。

反発のつもりで自分の胸を揉みしだいている王賁の手首を掴み、骨が軋むほど強く力を込めた。手首に走った痛みに、王賁の眉間に皺を寄ったのを見上げ、信が低い声を発する。

「俺にだってな、抱かれる男を選ぶ権利・・・・・・・・・・くらい、あるんだよ」

王一族の嫡男として生まれた王賁が、昔から自尊心が高い男であるのは知っていた。そこを突いて、さらなる侮辱の言葉を与えてやろうとした瞬間、思い切り下顎を掴まれる。

「いつまでも減らぬ口だ」

「…、…ッ…」

強制的に黙らされると、王賁がまるで口づけでもするのかと思う程に顔を寄せて凄んで来た。

「信」

王賁から名前を呼ばれたのは随分と久しいことだった。

幼い頃に王騎の養子として、王一族に引き取られてから、随分と長い付き合いになるが、王賁から名前を呼ばれたのは今日まできっと数えるくらいだったと思う。

「これが最後の警告だ。立場を弁えろ」

下顎を強く掴んだまま、鋭い目つきで自分を見下ろしている王賁は、首を縦に振る以外の返事を認めないつもりだろう。そのことに、信は無性に反発を覚えた。

一応返事を待ってくれているらしい王賁に、信は迷うことなく再び唾を吐きかける。今度は頬に命中した。

反撃に殴られることは予想していたので、信はすぐに身構えたのだが、王賁は閉眼するばかりで、何かを考える素振りを見せていた。

「…貴様のような下僕風情に、警告などという無意味なことを続けた俺がバカだった」

彼の声色から、落胆の声色を感じ取り、信は眉根を寄せる。

その一瞬の油断によって王賁が振り被った拳への反応が遅れてしまい、一切加減されることなく頬を殴打された激痛に、信の意識は焼き切れた。

 

 

次に目を覚ました時、信は目覚めたことを瞬時に後悔した。

「……ぅ…ん…」

太い何かが何かが唇を押し開いて、口の中を出入りしている。

「ふ、ッく…っ、んん…!?」

口の中を出入りしている太いそれが時折喉を塞ぐので、口での呼吸が出来ず、必死に鼻で呼吸を繰り返す。

状況を理解するよりも先に、その苦しみから逃れようと首を動かすが、頭を押さえられて阻止される。

「んんッ…!」

王賁が自分の顔に跨っていて、その男根を咥えさせているのだと気づくと、信の中で驚愕よりおぞましさが上回った。

何をしているのだと問おうとしても、口は塞がれており、くぐもった声を上げることしか出来ない。

かといって突き放そうとしても、意識を失っている間に両腕は後ろで一纏めに拘束されており、使い物にならない。

信が目を覚ましたことに気が付いたのか、王賁が腰を動かすのをやめて、信の前髪を掴み上げる。

「んんッ、んぐッ、ん、むぅっ」

男根によって塞がれた口が蠢くものの、言葉を紡ぐことは出来ない。

頭を前後に揺さぶられて、喉奥を突かれる度に生理的な吐き気が込み上げた。
唾液に塗れた男根がぬらぬらと怪しく艶を持ち、口の中が出入りを続ける。粘り気のある液体が弾ける音に、信は耳を塞ぎたくなった。

自分の口を使って自慰に浸っているような王賁に、信は目を白黒とさせている。

絶頂に向けて上気した顔も、切なげに眉を寄せてながら荒い息を吐いているその姿を見るのも初めてだった。

信は未だ男に抱かれた経験はないのだが、男の象徴ともいえるそれを無理やり咥えさせられている今の状況は、凌辱を強いられているのと同等な行為だと断言出来る。

どこまで自分を侮辱する気だと、怒りを込めて睨みつける。
しかし、王賁はその視線を受け流すと、より深く信の口に男根を飲み込ませた。

「ふ、ぅぐッ…ぐ、ぅんんッ」

喉奥まで男根を咥えさせられるだけでなく、下生えに鼻を塞がれると、息が出来なくなる。

呼吸が出来ない苦しみに、このまま殺されるのだろうかと恐怖が這い上がって来た。

将としての名誉ある死ではなく、女として凌辱の末に殺される憫然たる末路を想像する。咄嗟に歯を立てて抵抗をしたのは、ほとんど無意識だった。

「ううッ…」

呼吸が出来るようになったのと同時に、思い切り頬を打たれる。

薄く開いた瞳に王賁の憤激した顔が映ったが、ざまあみろと信は引き攣った笑みを浮かべることでとことん反発の意を示すのだった。

 

最終警告 その二

まさかまだ抵抗されるとは、王賁も予想外だったに違いない。

諦めてさっさと解放すれば良いものを、どうやら信の抵抗は王賁の加虐心に火を点けてしまったようだった。

大きく足を開かされたと思うと、王賁がその間に腰を割り入れる。
意識を失っている間に両手を拘束されるだけでなく、着物まで脱がせられていたことに気付いた。

「放せッ…」

何度も顔を殴られて、腫れ上がった顔を惨めに歪ませながら、信が王賁に訴える。しかし、彼はもう耳を傾けることもしなかった。

「あっ、やだ…やめ、ろ…!」

先ほど噛みついて抵抗したというのに、今もなお、硬さと大きさを変えずにいる男根の先端が淫華に押し付けられた。

両手を背中で拘束されたまま、信は必死に身を捩って逃げようとした。
その腰を掴んで引き戻し、王賁は唾液で濡れそぼった男根で花弁の合わせ目を何度かなぞる。

男に抱かれた経験のない信であっても、王賁が何をしようとしているのか、それが分からぬほど愚鈍ではなかった。

破瓜を破られる痛みは未知なるものだが、それが激痛を伴うというのは噂で聞いたことがあった。

将として生き抜くことを誓っていた自分には縁のない話だとばかり思っていたのだが、まさか王賁によってその痛みを味わわせられることになるだなんて、想像もしていなかった。

「っ…ん…」

自分でも滅多に触れない場所を、何度も切先で擦られて、信の中で嫌悪以外の感情が芽生え始めた。

それが性的な喜悦であることは信にも自覚があり、同時にこんな状況で浅ましいと思ってしまう。よりにもよって王賁にこんな声を聞かれたくなかったし、情けない顔も見られたくなかった。

「う、…く…」

歯を食い縛って身を固くしていると、王賁が身を屈めて首筋に吸い付いて来る。むず痒い刺激に、鼻から抜ける声な声が洩れた。

「な、なにッ…?」

男根の切先を淫華に擦り付けながら、王賁の手が今度は胸に伸びて来た。さらしを外した時は容赦なく掴み上げて来たくせに、まるで別人のように優しい手付きをしている。

「…ふ、ぅ…」

胸の芽を立たせるように指で摘ままれて、下腹部が切ない疼きを覚える。
必死に声を堪えているものの、先ほどのように小言も言わずに黙り込んだ信を見て、王賁も体の変化に察したようだった。

「ぁ…はあ…」

胸への刺激を続けられ、先ほどから切先を擦り付けられている淫華から、次第に水音が大きくなっていく。

強く目を閉じても、互いの荒い呼吸と、粘り気のある卑猥な水音が鼓膜を震わせ、嫌でも男女の性を意識してしまう。

「っ、ふ…んんッ、ぅ…!」

日頃から武器を握って鍛錬に勤しんでいる王賁の指が、狭い其処を掻き分けて奥へ入り込んで来たのが分かり、信は息を詰まらせた。

挿れられたのは一本だけだったが、蜜で潤んだ中の粘膜を確かめるように、中で指を動かされる。

「あ、やっ、やめっ…」

中で指が動かされる度に、信の意志とは関係なく淫華が蜜を分泌させていく。
まるで自分の体が自分のものではなくなってしまったかのように、体がびくびくと跳ね上がった。

胸を弄られている時と同じで、異物感とは違う嫌悪以外の感情が溢れて来る。

王賁は微塵も表情を変えていなかったが、彼の瞳には軽蔑の色が見て取れた。喜悦に身体を震わせる目の前のおんなを浅ましいと思っているのだろう。

しかし、動かしている指を止めることはせず、むしろ信に声を上げさせようと指の動きを大きくしていく。

蜜でどろどろに塗れた指をようやく引き抜かれた時、信はぐったりと床に倒れ込んでいた。

 

 

指が抜かれてから間を置かず、指とは比べ物にならない太いものを押し当てられて、信はひゅっと息を飲む。

下肢を見やると、恐ろしいまでに屹立したそれが奥へ進んで来ようとしているところだった。

「ぁ、やだッ、いやだッ!王賁、やめろッ」

信は懸命に身を捩って、最後の最後まで抵抗を試みた。

「警告を聞かなかったのは貴様だ」

一切の感情を感じさせない声に、信が怯えたように瞳を揺らす。

このまま王賁が腰を押し出せば、もう元には戻れない。
王一族の繋がりはあるとはいえ、好敵手だと思っていた王賁を、二度と友だと呼べなくなってしまう。

嫡男である王賁が、王一族に突然やってきた下僕出身である自分のことを毛嫌いしていることは昔から知っていた。

それでも戦で武功を重ねる度に、王賁が言葉にせずとも自分の奮闘を認めてくれていることをわかっていたので、身分差など気にせず、王賁と付き合ってこれたのだ。

好敵手として、友としてこれからもその関係を深めていくのだと思っていたのに、王騎の死がきっかけとなって全てが崩壊してしまった。

「うッ…うう…」

泣きたくもないのに、泣いてもどうしようもないのに、堰を切ったかのように涙が止まらなくなる。

信は嗚咽を堪えながら、王賁に泣き顔を見せまいと顔を背けた。

「…己の立場を理解したか」

王賁のその言葉は、穏やかな声色が伴っていた。機嫌が良い時の王賁の声だ。
もしかしたらやめてくれるのだろうかと微かな希望が胸に宿る。

鼻を啜りながら目線だけを王賁へ向けると、彼は相変わらず鋭い眼差しを向けていた。

「王一族に取り入った下僕風情が、誰を敬うべきか言葉に出してみろ」

「っ……」

信は声を喉に詰まらせる。答えないのなら、このまま凌辱を続けるつもりだろう。

王賁と身を繋げて今までの関係が全て壊れてしまうくらいならと、信は奥歯を噛み締めて、声を振り絞った。

「お、王賁、…」

言葉にするのは簡単だったが、声に出してから、信は拒絶反応でも起こしたかのように体を震わせた。

初めて信が「王賁様」と呼んだことに、王賁自身も何か感じることがあったのだろう。束の間、沈黙が二人の間に横たわった。

(これで、終わる…)

言うことには従ったのだから、信はこれで解放されると安堵していた。
脅しのつもりで挿入を試みようとした王賁には、どれだけ罵声を浴びせても足りない。しかし、それだけ彼が憤激していたことを理解した。

今後も王賁とは必要以上の付き合いはしないと心で誓ったところで、彼が退く気配を見せないことに、信は嫌な予感を覚えるのだった。

「お、おい…?早く、退けよ…」

催促すると、爬虫類を思わせるような冷たい瞳を向けられたので、信は背筋を凍らせた。

「勘違いするな。これは仕置きだ。俺は一度たりともやめるとは言っていない・・・・・・・・・・・

「え?」

指の痕が残るほど強く腰を掴まれて、王賁が腰を前に突き出す。

「ぁ”あ”ああ―――ッ」

狭い場所を無理やり抉じ開けられる痛みに、信の口から無意識に悲鳴が溢れた。

 

恐怖症

いくら蜜で潤んでいるとはいえ、男を受け入れたことのないその道は狭く、入り込んで来た屹立に拒絶反応を示していた。

真っ赤に焼いた鉄棒を捻じ込まれるような激痛に悲鳴が止まらない。無意識のうちに身体が激痛から逃れようと仰け反った。

苦悶に顔を歪めて悲鳴を上げる信は非力そのものだった。女に生まれて来なければ良かったという後悔さえ覚える。

しかし、王賁は迸る悲鳴を聞いても一切顔色を変えることも、やめる素振りも見せない。

より一層奥へ進もうと王賁が腰を前に突き出すと、なにかがぶつりと弾けたような感覚がして、信の意識が錯乱した。

このまま意識を手放してしまえばどれだけ良かっただろう。目の前の現実から逃れたい一心で、信は大粒の涙を流し続ける。

「っ…」

細腰を抱え直し、王賁がしきりに呻き声を上げていた。信にとっては激痛でも、男根は蕩けるような快楽に包み込まれていた。

互いの性器が繋がっている部分に赤い雫が滲んでいる。それが破瓜の血であり、紛れもなく信が初めて男を受け入れた証拠だと分かると、王賁の胸に愉悦が浮かんだ。

「いたい、いたいぃっ、やだ、やあッ」

泣きじゃくりながら、幼子のような口調で信が哀訴する。

普段は強気で弱みを一切見せないはずの彼女の豹変ぶりと血の匂いに、王賁の中の加虐心は歯止めが利かなくなってしまう。

背中で拘束してある両手ががりがりと爪を掻いていることには気付いていたが、拘束を外す気にはなれなかった。

自分の立場を思い知れば良いと心の中で毒づきながら、王賁は容赦なく腰を律動させた。

「ッ、…ぁ…!」

下から突き上げられる怒張の勢いに息が紡げず、信が目を白黒とさせる。

ひっきりなしに悲鳴を上げていたはずの彼女が急に押し黙ったので、気をやったのかと王賁が一度腰を止める。

不自然に唇を閉じ、強く瞼を閉ざしている信を見て、王賁は考えるよりも先にその首を締め上げた。

「がッ…あ…」

現れた舌に、歯形に沿って血の滲んでいる。凌辱に耐え切れぬあまり、舌を噛み切ろうとしたのだと分かった。

死に逃げようとするほど、自分からの凌辱が彼女の心を追い詰めたのだと思うと優越感に浸ることが出来たが、同時にそれはとても不快でもあった。

「はッ…はあ、ッぁ…」

僅かな気道を残す程度に首を締める力を加減をしていると、信が陸に上がった魚のように口を開閉させている。

酸素を取り入れようと開く上の口とは違って、王賁の男根を受け入れている下の口はぎゅうと締まった。

「んんッ…!」

首を締められながら唇を重ねられ、信は霞みゆく視界いっぱいに王賁の顔が映っているのが見えた。

王賁と唇を重ねるのはこれが初めてだったが、ただの凌辱の延長でしかない。
口づけの感想を考える間もなく、完全に呼吸が出来なくなり、信が意識の糸を手放し掛けたのを見計らって、王賁はようやく唇と首を締める手を離してくれた。

小さくむせ込みながら何とか呼吸を再開する。未だ破瓜を破られた痛みが後を引いているというのに、王賁は容赦なく腰を動かした。

「ぁあッ、あぐッ、ぁあ、はッ、ぁあ」

内側を抉じ開けられるだけじゃなく、引き裂かれるような痛みが伴い、串刺しにでもされたかのような感覚を覚える。

背中で拘束されたままの両腕は使い物にならず、ろくな抵抗も出来ないまま甚振られる今の状況に、信の心は揺るぎ始めていた。

 

 

「う…ぅうッ…」

破瓜の痛みに声を上げていた信が、鼻を啜っている。

痛みに苦悶の表情を浮かべていたのは気づいていたが、双眸から涙が流れ始めている。泣き顔を隠すように背けていたが、その瞳には確かに恐怖の色が浮かんでいた。

自分に屈したとしか言いようのない彼女の表情に鳥肌が立ち、王賁の心が激しく波立つ。

「許しを乞え。低俗な下僕らしくな」

信の前髪を掴み上げ、低い声を放つ。
下僕という言葉に反応したのか、信が奥歯をさらに強く食い縛ったのが分かった。目を逸らしたのは抵抗の意志を示すためだろう。

しかし、その瞳から恐怖の色が薄れることはない。
抵抗も拒絶も許さないと王賁が睨みつけていると、泣き濡れた瞳が王賁を捉え、唇を戦慄かせた。

「…王賁、様…」

先ほどのように、嫌々言わされている声色ではなかった。

「お、許し、くだ、さ、い」

情けないまでに震える声が紡がれた。
その言葉が、自分の命じた通りに許しを請うものだと分かると、胸に優越感が沁みていく。

「ぁあッ!?んッ、っぅう、ッ…!」

腰を律動すると、信が咄嗟に食い縛った歯の隙間から情けない悲鳴が漏れ出した。
当惑を見せた信に、王賁は僅かに口の端をつり上げる。

「この俺が下僕の言うことを聞くと思っているのか」

「ッ、は、嵌めやが、ったなッ」

二度も様付けを強要されただけでなく、無様に許しを請う言葉まで強要されたことで、信が悔しそうな表情を浮かべる。

「うッ」

またもや生意気な口を利いたことに、王賁は容赦なく頬を打つ。真っ赤に腫れ上がった顔で睨みつけられても、無様な姿が強調されるだけだ。

なぜいつまでもこの女は学習しないのかと疑問を抱いたが、答えは考えるまでもない。信に学ぶ気がないからである。

(ならば、骨の髄まで分からせてやれば良い)

王賁は組み敷いている信の体を抱え直すと、容赦なく腰を前に突き出した。

「ふぐ、ぅ、あうぅッ」

苦悶に染まった信の声を聞くと、それだけで心が潤う。もっと泣き叫んで、無様に許しを請えば良いと思った。

そして彼女のこんな情けない姿を見るのは、生涯自分だけで良い。

自分が認めた男ならまだしも、名も顔も知らぬ男の手垢に汚されて、信が信でなくなってしまうのなら、このまま手折ってしまおう。

それが紛れもなく、信に対する独占欲だという感情だということに、王賁自身が気づくことはない。

ただ、胸に沈んでいるどろどろとしたものを拭い去るように、王賁はひたすらに凌辱を強いた。

 

恐怖症 その二

「ッ…」

破瓜を破ったばかりの開通した道はかなり狭く、首を締めなくとも痛いまでに締め上げてくるのだが、子種を搾り取られるかのようなうねりに思わず息を吐いてしまう。

膝裏を抱え直して、より深い結合を求める。絶え間なく与えられる刺激と、絶頂に向けて荒い息を吐いている王賁に、信が怯え切った眼差しを向けた。

「いやッ、やだ、やめろッ…!」

男根が肉壁を押し開いていく度に、信がひっきりなしに泣きそうな声を上げる。

「…やめろ・・・?」

聞き捨てならない言葉遣いに低い声で聞き返すと、信が失言をしたことを自覚したらしい。

「や、やめて、くださ、い」

しゃっくりをあげながら紡いだ言葉は、正しく慈悲を請う言葉だった。

昂りが信の体を支配し、その心をも征服出来たのだと王賁は悟る。こんなにも簡単に、心根の強い彼女が屈するとは思わなかった。

「自分の立場を覚えておけ。俺に逆らうことは、決して許されない」

一切の拒絶を許さない、信の意志も返事も必要ない冷酷な言葉に、信の瞳から止めどなく涙が流れ続けている。

喉が潰れるまで泣き喚いて、自分の過ちを悔いろと王賁は嘲笑った。

下賤の出である立場を弁えていたのなら、もっと真っ当に信を愛することが出来たに違いない。

なぜ卑しい身分でありながら、将を続けるのか、自分と同じ場所に立とうとするのか、王賁にはそれが理解出来なかった。

将になる夢など諦め、健気に自分の帰りを待っていれば良い。自分に嫁ぎ、子を孕み、産み、女としての幸福を掴んで、その生を全うすればいい。

今まで何度その言葉を飲み込んだことだろう。王賁は数えることも諦めていた。

「んぁあッ」

乱暴な突き上げに、信が身体を反り返らせる。
律動を繰り返すつれて、もともとが一つであったのかと思うほど、互いの性器が馴染んでいくのが分かった。

「はあッ…」

射精への衝迫に、顔が燃えるように上気していく。

「やっ、やあッ」

まだ諦めていないのか、信が幼子のように首を振って泣き喚きながら、懸命に身を捩る。

体重をかけてその体を押さえ込みながら、王賁が最後の楔を打ち込む。腹の底から昂りにかけて熱いものが迸り、快楽が全身を貫いた。

「ぁ、いや、だぁッ…!」

女にしか分からない、子宮に精液を注がれる耐え難い不快感に、信が内腿を震わせながら掠れた声を上げる。

しかし、慈悲を掛けることはない。最後の一滴まで零すことなく、子宮に子種を植え付けてから、王賁が長い息を吐いた。

ゆっくりと男根を引き抜くと、破瓜の血と混ざり合った精液が一緒に溢れてしまう。

「…ぅ…う…」

自分と身を繋げたことや、中に射精されたことが余程堪えたのか、信は静かに啜り泣いている。

冷酷な瞳で見下ろすと、王賁はようやく身を起こして、彼女の口元に未だ濡れている男根を押し付けた。

破瓜の血と白濁で汚れている切先で唇をなぞってやると、小癪にも男根から顔を背けようとする。

「う、ぅんんッ」

髪を掴んで男根を清めさせるために、無理やり口腔に突き挿れると、苦し気な声が上がった。

自分の破瓜を破り、何度も肉壁を押し分けていたものが口に入れられることには生理的な嫌悪感があったのだろう。

「…ん、んぅ…」

やがて、苦悶の表情を浮かべたまま、切先に舌を這わせ始めた。
涙を流し続けているその瞳から、反発の色も恐怖の色も失われていき、絶望に染まる瞬間を、王賁は確かに見たのだった。

 

番外編②(蒙恬×信←桓騎)はこちら