リプロデュース(五条悟×虎杖悠仁)

リプロデュース(五条悟×虎杖悠仁)後編

五悠 リプロデュース3 五条悟×虎杖悠仁
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  • ※悠仁の設定が特殊です。
  • 女体化(一人称や口調は変わらず)・呪力や呪術関して捏造設定あり
  • 五条悟×虎杖悠仁/ストーカー/ヤンデレ/バッドエンド/All rights reserved.

苦手な方は閲覧をお控え下さい。

中編はこちら 

 

廃校舎の鬼ごっこ

教室を飛び出したのは、ほぼ無意識だった。身体が勝手に動き出したと言っても過言ではない。

これ以上、悟と一緒にいると、今まで二人で築き上げて来た思い出が全て崩れていってしまいそうだった。

まさか大切にしていた思い出が、悟自身の手によって崩されるだなんて思いもしなかった。

何の感情かも分からない涙を流しながら、悠仁は長い廊下を走り続ける。

「悠仁?どこ行くの?」

背後で悟に声を掛けられたが、悠仁は一度も振り返らなかった。

走っているうちに、生徒用の正面玄関が目について、悠仁は学校を出ようとする。

「――痛ッ!」

夢中で大きな扉の取っ手を掴んだ時、鋭い痛みが走り、悠仁は弾かれたように手を遠ざけた。

少し遅れて、右の手の平にじくじくと火傷のような痛みが伝わって来る。

「え…?」

視線を向けると、右手が真っ赤に染まっている。取っ手を掴んだ手の平がズダズダに切り裂かれていた。

何があったのだろうと取っ手をみると、有刺鉄線のように赤黒い何かが取っ手に巻き付けられていた。触れた者は容易に切り裂かれてしまう。

(ヤバいッ)

それが物理的なものではなく、悟が呪力で塞いだのだと判断した悠仁は、即座に玄関からの脱出を諦めて、再び駆け出した。

まさか逃げ出さないように事前に細工を施していたのだろうか。

扉にあのような細工をされているのなら、きっと窓もアウトだ。廊下を走りながら、悠仁は幾つも並んでいる窓に視線を向けた。

注視すると、鍵の辺りだけでなく、窓全体を覆うように呪力で塞がれている。出入り出来る場所が塞がれているとすれば、どこから脱出すれば良いのだろう。

「悠仁?ねえ、怪我したの?」

右手から垂れる血の痕を見たのだろう、距離は開けているが、後ろの方から心配そうな悟の声が聞こえた。他に誰も居ない廃校舎だからだろう、彼の声はよく響いた。

階段を駆け上がり、悠仁は一番近くにあった教室の中に転がり込んだ。

(隠れなきゃ)

悠仁は咄嗟に身を屈める。学校の扉は全てガラス窓がついているので、廊下から教室の中を覗かれる可能性があった。

横長の黒机が並んでおり、教室の隅に薬品棚と人体模型が置いてある。独特な薬品の匂いも伴って、ここが理科室であることはすぐに分かった。

「…!」

扉越しにゆっくりと階段を上がって来る靴音が聞こえて、悠仁は身を屈めながら床を移動する。

横長の黒机の下に身を隠し、なるべき物音を立てないように悠仁はパーカーを脱ぎ、出血している右手を包み込む。血の痕を残す訳にはいかなかった。

階段を上り切った足音を聞こえる。
悟がこの教室に来ないことを願いながらも、悠仁は逃げ道を考えていた。

(玄関も、窓もダメだ…じゃあ、どこから…)

恐らく扉や窓は全て呪力で塞がれているだろう。いくら宿儺の呪力を持っているとはいえ、悟の強大な呪力を破ることは出来ない。

それに、呪力を使うことは悟にこちらの居場所を自ら示すようなものだ。

彼に気付かれずに、脱出するにはどの通路を選べば良いのだろう。

帳を解いて助けを呼んだところで、この廃校舎にはもともと誰も近づかないし、救援など当然ながら期待出来なかった。

それに、今の悟の前で助けを呼べば、仮に誰かが駆けつけたとしてもその者も殺されてしまうに決まっている。彼は自分のために同じ家の人間を簡単に殺したのだ。他人など躊躇なく殺すに決まっている。

(…屋上は…?)

正面玄関は塞がれていたが、咄嗟にこの理科室に逃げ込んだ時には、扉は呪力で塞がれていなかった。

もしも塞がれている扉が外に通ずる玄関だけだけなら、屋上へ続く扉は封鎖されていないはずだ。

屋上から降りて校舎から逃げ出せば何とかなるかもしれない。

「ッ」

乱暴に扉が開かれた音がして、悠仁は反射的に手で口に蓋をした。悟が入って来たのだ。
机の下に身を潜めたまま、悠仁は必死に息を殺し、気配を消していた。

 

理科室のかくれんぼ

「…悠仁、何してるの?もう呪霊も祓ったんだし、帰ろうよ」

悟の声を聞き、悠仁は固唾を飲み込んだ。

理科室に逃げ込んだ姿は見られていないはずだが、悟は悠仁がここにいると既に気付いている。

位置情報を発信している機械が埋め込まれていたピアスはもう外したはずだが、もしかしたら右手の血が廊下に残っていたのだろうか。

悠仁は左手で口に蓋をしたまま、机の下で縮こまっていた。

ここで捕まれば、悟はきっと優しく抱き締めてくれるだろう。一緒に帰ろうと蜂蜜のように甘ったるい言葉をかけてくれるに違いない。

だが、それでは駄目だ。悟の幸せを想っているからこそ、彼と一緒になってはいけない。

どれだけ悟が自分に執着していたとしても、逃がさないとしていても、五条悟が五条悟である限り、彼と一緒にはなれない。

いっそ彼の前を去る時に、酷い言葉をかけて、自分という存在を幻滅させれば良かったのかもしれないと悠仁は考えた。

何も言わずに去るのではなく、悟が自分を見放すように仕向けるべきだったかもしれないと今になって後悔した。

「理科室ってさ、色んな臭いがして面白いよね」

まるでそこにいる悠仁に話しかけるように、悟が声を掛ける。

悠仁が隠れている机の近くを、悟はぐるぐると回っていた。彼の長い脚が見えて、悠仁は必死に声を堪えている。

僅かな呼吸さえも指の隙間から洩れて、彼に聞かれているのではないだろうか。悠仁は懸命に息を殺し、気配を消そうと必死になった。

「………」

しばらく歩き続けて、悟は隠れている机から離れて行ったが、まだ理科室からは出て行かない。

「…へえ、こんなのも残ってるんだね」

教室の隅にある棚の前で立ち止まり、中に入っている物を眺めているようだった。

廃校舎とはいえ、教室には机や椅子が残ったままで、棚の中にも残っている物が多くあるらしい。

鍵は掛かっていなかったのだろうか、棚の引き戸を開ける音が聞こえた。

「あはっ、こんなのもあるんだ」

独り言が聞こえる。このまま自分から興味を失ってくれたら良いのだが、悟は棚の中に残されている物を物色しているようだった。

「悠仁っ!これ、劇薬だって!漫画みたい!」

新しい玩具を買い与えられたかのように、明るい声で悟が笑った。

机の下に身を潜めているのは気づかれているのかもしれないが、こんな風に話しかけてくるのは、こちらの動揺を誘うための演技かもしれない。

もしも後者ならば、悟が理科室から出た後に屋上へ向かおうと悠仁は作戦を練っていた。

「…そういえばさ、悠仁は薬品を被ったんだよね?」

思い出したように悟に声を掛けられる。もちろん返事をする訳にはいかなかったので、悠仁は沈黙を貫いていた。

だが、そこに悠仁の気配を感じているのか、悟は返事が無くても嬉しそうに微笑んでいる。

「悠仁がどんなに苦しんだか、知りたい・・・・なあ」

「!」

瓶の蓋を外した音と、蓋が床に落ちる小気味良い音が理科室に鳴り響く。嫌な予感を覚えた悠仁は弾かれたように机の下から飛び出した。

「先生ッ、待って!」

手を伸ばした時には、すでに悟は瓶の中身を、自分の頭から降り注いでいた。

液体が掛かった箇所からたちまち煙が上がり、嫌な匂いが鼻をつく。

「―――ぁああああッ」

その場に蹲った悟が喉も避けるような絶叫を上げる。

「あづいッ、あづい、痛いッ、いだぃぃ」

一度も聞いたことがなかった悟の苦痛の声に、悠仁は愕然とすることしか出来ない。

空になった瓶が床に転がっている。瓶に貼られていたシールの絵を見て、中身が人に有害な劇薬だと分かると、悠仁は掻き立てられるように悟の前に駆け出した。

「先生ッ!先生ッ」

「ぅうううッ」

悠仁の声も耳に届いていないのか、悟は痛いと泣き喚いている。

まるであの日の自分を見ているようで、悠仁はつい目を背けたくなった。

「しっかりして、先生ッ」

動揺のあまり、悠仁の双眸から涙が溢れ出る。

皮膚の焼ける嫌な匂いに気分が悪くなっていたが、それよりも目の前で起きた現実が信じられず、悠仁は必死に悟の名前を呼び続けた。

「痛いよ、悠仁…痛い、痛い」

悟が怪我をしている姿など一度も見たことがなかった。今のように痛いと泣き喚く姿を見るのも初めてだった。

「悠仁ぃ、痛い、痛い…」

痛みのせいで体が小刻みに震えている。

一番多く薬液が掛かった顔を押さえているが、その腕にも薬品がかかったらしく、服が溶けており、その下の肌は真っ赤に焼け爛れていた。

腕にかかったのが少量だとしたら、顔は一体どれだけ焼け爛れてしまったのだろうか。

「…う、ううぅっ…痛い、熱いよ、悠仁…苦し、い…」

幼子のように啜り泣いている悟を見て、悠仁の瞼の裏にあの日の自分の姿が浮かび上がった。

薬品を浴びた日、悠仁も同じように苦痛の中で悟の名前を呼びながら啜り泣いていた。

「先生…!」

まるで導かれるように、悠仁は悟の体を強く抱き締める。

こんなことで痛みが和らぐとは思えないが、あの時の自分のことを思うと、抱き締めずにはいられなかった。

苦痛の中で悟の名前を呼びながら、悠仁は悟に抱き締めてもらいたいと強く願っていたからだ。

まだお互いに想いが同じならば、悟が望んでいるのは、自分が抱き締めてやることだ。

それは傲慢ではないかともう一人の自分が囁くが、悠仁は強く悟の体を抱き締めることしか出来なかった。

「―――捕まえた」

それまで幼子のように泣いていたはずの悟が、急に穏やかな声色で呟いたので、悠仁は弾かれたように顔を上げた。

「え…」

驚いて彼から離れようとしたが、それよりも早く悟の両腕が悠仁の体を抱き締める。まるで鎖のように二本の両腕が強く悠仁の体に巻き付いた。

「悠仁の方から戻って来てくれたね。根競べ・・・は僕の勝ちってこと?」

「ひぃッ…」

近距離で視線が合う。

悟の肌はあの時の自分と同じように真っ赤に焼け爛れていて、ぐずぐずに溶けている部分もあった。

瞼も溶け落ちてしまったのか、青いガラス玉のような美しい眼球がほとんど剥き出しになっている。

目の前にいるのが、五条悟という男だと分かるまで、悠仁はしばらく時間がかかった。

「…きッ…きゃぁああああああああッ」

恐怖のあまり、喉も裂けるような悲鳴を上げた後、悠仁は意識の糸をふつりと手放した。

 

目覚め

目を覚ますと、見知らぬ和室にいた。

布団に寝かされていて、服は浴衣のような寝間着に着替えさせられていた。

ずきずきと頭が痛む。額に手を当てながら上体を起こすと、焼け爛れていたはずの肌が元に戻っていることに気付く。いや、思い出した。

「あっ…」

記憶の糸が一気に巻き戻り、悠仁は青ざめた。

呼吸を乱していると、障子が開けられた音がして、悠仁は震えながら顔を上げた。

「大丈夫?悠仁」

悟だった。あの理科室で薬品を破ったはずなのに、彼の顔には傷一つ残っていなかった。

自分の顔にも、悟の顔にもあの赤く焼け爛れた醜い傷跡はない。まるで初めからそんなものなどなかったかのように、消え去っている。

まさか夢だったのかと疑ったが、もしそうだとしたら、自分はどれだけ長い夢を見ていたのだろう。

呪術高専を自主退学したところから、本当に、全て夢だったのだろうか?

「先生…」

戸惑いながら悠仁が声を掛けると、悟が安心させるように優しい笑みを浮かべて頭を撫でてくれた。

「もう僕から離れないでね」

「…せ、先生…」

「全部、夢だったんだよ。悠仁は夢を見てただけ」

まるで思考を読み取られたのように、悟は肯定の言葉を掛けた。

もちろん悠仁だって今までのことは全て夢だと信じたいが、夢だと納得するのは別の話である。

薬品を浴びた痛みも、赤く焼け爛れた肌の感触も、同じように薬品を浴びた悟の叫び声も、薬品で醜く溶けてしまった悟の顔も、悠仁は全て鮮明に覚えている。

記憶に深く刻まれたそれらを夢という一言で片づけるのは、さすがに困難だった。

しかし、悟は悠仁の言葉を聞くつもりがないのか、彼女の体をそっと布団に横たえる。すぐに悟が覆い被さって来て、悠仁は戸惑ったように目を見張った。

「せんせ…?」

「…良かった…」

耳元で囁かれた声は安堵で震えていた。

自分を抱き締めてくれる彼の体も小刻みに震えているのが分かり、悠仁は本気で悟が自分を心配してくれていたのだと気づいた。

彼の広い背中に腕を回し、悠仁はゆっくりと目を閉じる。

悟から離れようと決意するまでは、いつもこんな風にこうして抱き締められては幸福感に浸っていた。

(ダメだ…)

懐かしい幸福感に目を閉じそうになり、悠仁は自分に喝を入れた。

今までのことが夢だったとしても、状況は変わらない。

自分は悟の隣に立ってはいけないのだと自分に言い聞かせ、悠仁は悟の胸を突き放す。

「悠仁?」

拒絶されたことに、悟は小首を傾げている。

「ごめん、先生…」

彼の体を押し退けながら立ち上がった悠仁が小さな声で謝罪する。布団に座り込みながら、悟は呆然と悠仁を見上げていた。

「やっぱり、俺…先生とは、一緒になれない…」

改めて声に出すと、これまで二人で築き上げて来た思い出が走馬燈のように瞼の裏を駆け巡り、喉がきゅっと痛んだ。

しかし、他の誰でもない、悟のための決断だ。今さら覆す訳にはいかない。

たとえ本当に先ほどまでのことが夢だったとしても、悠仁の決意は変わらなかった。

「………」

しばらく悟は黙り込んでいたが、悠仁の体を放そうとはしなかった。

再び体を強く抱き込まれ、悠仁は思わず息を詰まらせる。

もうこれ以上、悟の温もりに触れてはいけない。心が絆されてしまう。悟の優しさに甘えて、現実から目を背けてしまいそうになる。そんなことは絶対に許されないと、悠仁に言い聞かせた。

「それならさ、ねえ、もう一度、初夜をやり直そうよ」

予想もしていなかった言葉を投げ掛けられて、悠仁は弾かれたように顔を上げる。

自分を見下ろしている悟のガラス玉のような青い瞳が、恐ろしいほど冷え切っていて、悠仁は思わず息を飲んだ。

見つめているだけで、指先から心臓まで凍り付いてしまいそうなほど、恐ろしい瞳をしている。

「僕、すごい反省してるんだ」

無意識に悠仁が怯えていることにも悟は気づかず、彼は口元に笑みを浮かべて言葉を紡いだ。

「もしかして、知らないところで悠仁を傷つけたのかなって…だから、もう一度・・・・初夜をやり直そうよ。また一緒に思い出を作れば、悠仁は傍にいてくれるでしょ」

今までのことをなかったことにするかのように、そんな提案をして来た悟に、悠仁の顔が引きつった。

「せ、んせ…俺の、俺の話、聞いてよ…」

縋るように悠仁が悟の腕を掴む。しかし、悟は悠仁と目を合わせているはずなのに、自分のことなど見えていないように言葉を続けた。

「高専や呪術界には戻らなくていいよ。家の奴らには一切手出しさせないし、悠仁は正式に僕の奥さんとして五条家に迎え入れるから。だから、何も心配することはないんだよ」

震える声で懇願するが、悟の耳には届いていないようだった。

彼の青い瞳は自分にしか向けられていないはずなのに、なぜか目が合っていないように思える。

こんなにも傍にいるのに、悟は自分じゃない何かを見ているようで、悠仁は恐ろしくなった。

 

真相

「悠仁、僕ね、悠仁が薬を浴びて、泣きながら僕の名前呼んでるの知ってた」

「…え…?」

その言葉が耳に入って来て、脳が理解するまで時間がかかった。

先ほど、今までのことは夢だと言った悟が、自分の言葉でそれを否定した。悠仁が自ら薬品をかけたことは紛れもなく事実で、先ほどまでのことは夢なんかじゃない。

呆然としている悠仁に、悟はスマホの画面を見せた。

「ほら、これ」

画面には録画した動画が映し出されていた。扉の隙間から撮影したものなのか、両端に扉と壁が映っている。

再生ボタンを押すと、画面の中央で顔を押さえながら悲鳴を上げている自分の姿が映っていた。

『痛い!痛いッ、あづぃ、痛いぃッ…!』

それは紛れもなく、自ら薬品を浴びた自分の姿だった。

焼け爛れた皮膚から煙が上がっていて、動画の中の悠仁は悲鳴を上げながら、痛みに悶え苦しんでいる。先ほどの悟と鏡合わせのようである。

自分の声だというのに、耳を塞ぎたくなるほど悲痛な叫びだった。

やがて、動画の中の悠仁が啜り泣き始める。

『ぅっ…うう、いたい…せんせ…痛いよ…せんせえ…』

まるで迷子のように、弱々しく悟を求め続けている。

「本当に嬉しかったよ。悠仁が泣きながら僕の名前を呼んでくれて、興奮したなあ」

恍惚の表情を浮かべ、悟がスマホの画面の向こうにいる悠仁を覗き込んでいる。

「…見て、たの?」

誰にも見られていないと思ったのに、この動画が何よりの証拠だ。誰にも見られていないと思ったのに、悟は扉の隙間から覗き見ていたのだ。撮影までして。

愕然としている悠仁に、悟はにこりと微笑んだ。

「言ったでしょ?悠仁がいなくなった日から・・・・・・・・・・・・ずっとだよ・・・・・って」

一方的に悠仁が連絡を絶ち、高専から出て行ったことも、出ていく前に自ら薬品を浴びたのも、悟は全て知っていた。その目で見ていたのだ。

ピアスに位置情報の発信機をつけられていただけじゃなかった。言葉の通り、悟はずっと自分を見ていたのだ。もしかしたらこの動画のように、撮影もしていたのかもしれない。

「………」

動画の再生が終わり、二人の間に沈黙が横たわる。

「…悠仁。僕たち、両想いだよね?」

「っ…!」

ゆっくりと立ち上がった悟に確認するように問われ、悠仁は息を詰まらせた。

怒りでも悲しみでもない感情が悠仁の中で波を打つように広まっていく。それが恐怖だと理解した時、悠仁はその場に座り込んでしまった。

(にげ、なきゃ)

逃げろと命令しているのに、足腰に力が入らない。

「ぁ……あ…」

悟を見上げながら、悠仁は畳に爪を立てた。

心配するように悟が膝をつき、悠仁の頬を撫でる。

触れられた場所から、たちまち全身が凍り付いてしまう感覚に襲われて、悠仁はか細い呼吸を繰り返していた。

青ざめている悠仁を見て、悟が不思議そうに小首を傾げる。

「…どうしたの?僕が怖い?」

「……、……」

素直に頷くのは躊躇われた。そんなことで悟が逆上するような男だとは思っていないが、今目の前にいる男は自分の知っている悟ではない。

喘ぐような呼吸を繰り返し、悠仁は涙を浮かべながら畳の上を後退った。

ゆっくりと悟が追い掛け来て、畳の上に膝をつく。悠仁と目線を合わせた悟はにこりと微笑んだ。

「もうどこにも行かないでね、悠仁」

そう言って重ねられた悟の唇から、甘いココアの味がした。

初めて悟と唇を重ねた時と同じ、胸やけがしそうなほど、甘い味だった。

悟の骨ばった大きな手が、悠仁の寝巻着の中に入り込んできて、内腿をするりと撫でる。

「ひ…」

足の間を触られて、悠仁は鳥肌を立てた。

初めて彼に破瓜を捧げた時の痛みと、男の味を覚えて淫らに悟を求めた記憶が一気に悠仁の脳へ雪崩れ込んで来る。

「うっ…」

閉じた淫華を抉じ開けるように悟の指が入り込んで来る。

潤いもないのに指を突き挿れられ、しかし、一切の痛みを感じなかったことに悠仁は違和感を覚えた。

悟以外の男と体を交えたことはないし、高専を出てからそういう経験は一切なかった。

それどころか、自分は女としての幸せを掴むこともなければ、肌を重ね合うあの温もりを感じることは二度ないだろうと思っていた。

「ふ、ぅ…」

淫華に潜り込んだ悟の指がゆっくりと動き出し、悠仁は咄嗟に手の甲で自分の唇を塞いだ。

(なんで…)

悟が指を動かす度にくちゅくちゅと淫靡な水音が立つ。悠仁は羞恥のあまり顔に全身の血液が集まっていくのを感じた。

こんな状況でも、体は悟を求めていたのだろうか。

「っあ、せんせ、やめて…」

反応を楽しむかのように、中を擦る指の動きが単調なものから、確実に悠仁の感じる場所を探るような動きに変わっていく。

悟の手首を掴んで制止を求めるが、彼は口元の笑みを深めるばかりでやめようとしない。

「…さっきまで・・・・・、ここに僕のが入ってたんだよ。ほら」

中を擦っていた悟が指を引き抜いて、悠仁の眼前に突きつけた。粘り気のある白い液体が糸を引いて絡み付いている。

それが淫華の蜜ではなく、男の精液だと分かると悠仁は頭を鈍器で殴りつけられたかのような感覚に襲われた。

眠っている間に、この身は悟によって暴かれていたのだ。

 

二度目の初夜

羞恥で真っ赤になっていた顔が、今度は水を被せられたかのように青ざめていくのを、悠仁はまるで他人事のように感じていた。

自分が意識を失っている間にどれだけ犯されていたのだろう。

「な、んで…」

避妊をしてくれなかったのだと分かり、悠仁は震えながら悟に問い掛けた。

怯えている悠仁を見ても、悟は不思議そうに小首を傾げるばかりだった。

「僕の結婚相手に相応しくないって劣等感があったんでしょ?家のやつらを黙らせても、悠仁は帰って来てくれる気配がなかったし…僕の子供を身籠れば誰も口出せないかなって」

あっさりと答えた悟に、悠仁は息を詰まらせた。

五条悟の子を、つまり、五条家の跡継ぎをこの身に孕ませることで、五条家の人間を黙らせようとしているのだ。

青ざめながら震え始める彼女の姿を見て、悟が愛おしげに目を細める。

「んんッ」

精液がついた指を口の中に捻じ込まれた。味合わせようとしているのか、舌の上を執拗に指が動く。独特な苦みを感じ、吐き気が込み上げた。

想いが通じ合っていたあの頃は、悟に喜んでもらおうと自ら進んで口淫をしていた。

どうやれば男が喜ぶのか、分からないことばかりだったけれど、悟が自分の唇や舌で感じてくれると思うとそれだけで嬉しかったし、悟の射精を口の中で感じて、精液を飲み込むのだって何の抵抗もなかった。

悟もきっと同じように、自分のことを愛してくれていて、それは今も何も変わっていない。

自分が悟の元を離れてからも、彼は変わらず悠仁の傍にいてくれた。静かな凶器すら感じる、以前通りの悟のままだった。

「傷痕を綺麗に戻したように、悠仁の処女膜も戻してあげる。だから、これからはさ、何度でも初夜を繰り返そう?悠仁が満足するまで、僕はずっと付き合うから」

傷痕が初めからなかったかのように、怪我をした記憶ごと消されてしまったように、不都合な記憶は全て悟の中では消去されてしまったのだろうか。

自分の都合よく未来が進むように、彼は何度だって繰り返すつもりなのだ。

狂気に染まった道を、きっと悟は何度も往復して、自分の望む未来を歩もうとしている。

初めて破瓜を捧げた時に味わったあの痛みを、これから自分は一体どれだけ味わうことになるのだろう。

痛みに慣れる日は来るのだろうか。破瓜の痛みさえも不都合な記憶として忘れさせられてしまうのだろうか。

悟との幸せな思い出だけが詰まった自分が、彼と共に未来を歩むことになるのだろう。

「処女のまま子供を身籠るなんて、神秘的だね」

畳の上に押し倒されて、二度目の破瓜の痛みに堪えようと、悠仁は涙を流しながら静かに息を吐いた。