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バーサーク(輪虎×信・蒙恬×信)番外編

キングダム バーサーク3 蒙恬 信 恬信
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  • ※信の設定が特殊です。
  • 女体化・王騎と摎の娘・めちゃ強・将軍ポジション(飛信軍)になってます。
  • 一人称や口調は変わらずですが、年齢とかその辺は都合の良いように合わせてます。
  • 輪虎×信/蒙恬×信/嫉妬/無理やり/ヤンデレ/All rights reserved.

苦手な方は閲覧をお控え下さい。

本編はこちら

 

見舞い(輪虎×信)

このお話はバーサーク(蒙恬×信)の過去編です。

 

天下の大将軍と称えられていた王騎が討たれたという報せは、瞬く間に中華全土に轟いた。

もちろん輪虎が仕えている廉頗の耳にもその報せは届き、彼は三日三晩、酒に浸ることとなる。

ほどほどにするようにいつも声を掛けるのだが、泣き上戸である廉頗が酒を飲むと家臣も誰もが手をつけられなくなってしまう。

廉頗と王騎は互いを戦友と認め、共に酒を飲み交わす仲でもあった。敵将であっても、王騎と同じく秦の六大将軍の一人である摎が討たれた時も、情に厚い廉頗は涙を流していた。

王騎の弔いの儀を終えてから、数か月が経っていた。

空になった大量の酒瓶を抱えて出ていく従者と、新しい酒瓶を運ぶ従者たちが慌ただしく屋敷の廊下を走り回っている。

客人もいないのに、これだけの量を一人で飲む廉頗を見るのは随分と久しぶりだった。
王騎の訃報を聞き、未だ心を痛めているのだろうと輪虎は考えた。

そのうち酔い潰れて眠ってくれるのならば良いのだが、廉頗の酒の強さは家臣たちもよく分かっている。恐らく今日も朝まで飲み続けるつもりだろう。

昼間から飲み始めて、もうとっくに日が沈んでいる。従者たちが慌てて酒を運んでいる姿を見る限り、酒を飲む速度は飲み始めた頃と少しも変わっていないらしい。

(そろそろやめさせないと…)

輪虎が廉頗のいる間へと向かうと、彼は酒を杯に注ぐこともせず、酒瓶に直接口をつけていた。

「廉頗様、その辺にしておいてください」

主である廉頗に意見できるのは随分と限られているが、輪虎はその一握りの従者だった。

戦で親を失い、廉頗の下で育てられた輪虎は将としての才能を開花させ、今や廉頗四天王にまで上り詰めた。

涙で目を真っ赤に腫らした廉頗は輪虎の姿を一目したが、構わずに酒を飲んだ。味わっているのではなく、喉に流し込んでいるようにしか見えなかった。

廉頗が王騎を討たれた悲しみに浸っているのは分かっていたが、このままでは体に障る。いかに強靭な肉体を持っているとしても、酒の飲み過ぎは体を内側から壊してしまうだろう。

戦友であった王騎の死を悼んでいるのは分かっていたが、自分を拾ってくれた命の恩人であり、親代わりである廉頗には体に気遣って欲しかった。

廉頗はこれまでも多くの将たちの死をその目で見て来た。それが味方であれ敵であれ、戦友である彼らのために涙を流して別れを惜しむ。そんな廉頗の心優しいところが輪虎は誇らしくあったし、とても好きだった。

口付けていた酒瓶が空になると、廉頗は涙を拭いながら、ようやく輪虎の方を向いた。

「…輪虎、王騎の屋敷に行け」

「え?弔いの儀はもう終わったはずですが…」

廉頗は力なく首を横に振る。

「儂より腑抜けている娘がおるじゃろう」

「…信ですか」

娘と言われ、輪虎はすぐに信の名前を出した。王騎は摎の間に子は成さなかったが、養子がいた。名を信という。

彼女も輪虎と同じように戦で親を亡くした孤児で、将の才能を見出されて王騎と摎に拾われたのである。

王騎がこの屋敷に時々、信を連れて来ることがあり、輪虎もそこで彼女と初めて出会った。

互いの境遇が酷似していたせいか、信はすぐに輪虎に懐き、輪虎も信を妹のように可愛がっていた。母である摎に倣って剣を振るうようになった彼女と幾度も手合わせをしたことだってある。

手を抜くといつも叱られてしまうので、(怪我をさせない程度に)輪虎は相手をしてやっていた。それでも彼女が輪虎に勝ったのは片手で数えられるくらいである。

王騎と廉頗が酒を飲み交わしながら、自分たちの手合せを見守ってくれていた時のことを想い出し、輪虎は胸が切なく締め付けられた。

(信か…)

あれから何年も経ち、輪虎も信も将軍の座に就いていた。

手合せで輪虎に勝った時、信は大喜びして養父である王騎に報告していた。しかし、輪虎が両手剣の使い手であることと、手合せで全ての力を出し切っていないことを王騎は見抜いていた。

王騎がそれを信に告げると、隣で廉頗は大笑いしていたし、信は顔を真っ赤にして輪虎を怒鳴りつけた。あの頃はまだ二人とも将軍の座には就いておらず、平和だった。

戦乱の世でありながら、確かにあの時の時間は輪虎の中で幸福の記憶として刻まれていたのだ。

自分が廉頗の将であり、信が秦将ならば、いずれは本気で殺し合わなくてはならない。そんな当たり前のことを、子どもの輪虎でも分かっていたが、信はあまり考えていないようだった。

ただ、がむしゃらに強さを求めて、自分に勝つことで頭がいっぱいだったのかもしれない。

初陣を済ませてから、何度か信に会ったが、子どもの頃のお転婆な性格は少しだけ落ち着いたように見えた。だが、実力差は少しも埋まっていない。

もしも戦で相見えることがあったのなら、確実に信は自分に殺されるだろうと輪虎は思っていた。

最愛の父を失って腑抜けている今の彼女を殺すことなど、赤子の手を捻るよりも容易いことだ。

もしかしたら廉頗もそれを分かっていて声を掛けたのだろうか。

彼女が王騎の死から立ち直れず、戦で再会するようなことになれば、信は自ら輪虎に首を差し出すかもしれない。

そんなことは王騎も望まないだろう。もちろん廉頗も、輪虎だってそんなことはしたくなかった。

「…では、数日の間、休暇を頂きます」

廉頗が頷いたのを見て、輪虎はすぐに出立の準備を始めた。目的地は王騎の屋敷だ。

 

見舞い その二

王騎の屋敷に到着すると、家臣たちがすぐに輪虎を出迎える。

生前から王騎が廉頗と付き合いがあり、互いの屋敷を出入りしていたことは何度もあったので、輪虎も客人としてもてなされていた。

守るべき国が違えども、王騎の家臣たちは輪虎を追い返すような真似はせず、むしろ喜んで招き入れてくてた。

信の見舞いに来たことを告げると、従者たちは困ったように目を見合わせる。

「…そんなにまずいのかい?」

問い掛けると、従者たちは暗い表情で視線を落とした。

王騎の弔いの儀を終えてから数か月は経った。信のことだから、怪我や疲労など構わずに鍛錬に打ち込んでいるのではないかとも思っていたのだが、廉頗の見立て通りに腑抜けてしまったらしい。

信がいる部屋に案内され、従者が扉越しに声を掛けたが、信から返事はなかった。

困ったように従者が視線を送って来たので、輪虎は頷いた。ここまで休むことなく馬を走らせて来たのだから、会わないで帰る訳にいかなかった。

「信?」

部屋に入ると、信が寝台の上に横たわっているのが見えた。

目を開けているのだが、虚ろな瞳で光がない。胸を上下させて呼吸するだけで、魂の入っていない抜け殻のように見えた。

「…信」

もう一度名前を呼んで、寝台に横たわる彼女の前に立つが、信は反応を見せなかった。

目は合っているはずなのに、虚ろな瞳に輪虎の姿が映っているだけだった。何も見えていないし、何も聞こえていないのかもしれない。

最後に会った時よりも随分と痩せており、顔色が悪かった。今は涙が流れていなかったが、瞼が腫れている。

ずっと泣いていたのだろう。泣き疲れて眠ってくれていたのならと思うが、それも出来ぬほど信の悲しみは深いものだと分かる。

王騎が討たれたという知らせを聞いた時、輪虎はまさかと思った。廉頗もすぐには信じられず、一体何があったのだと瞠目していたことを覚えている。

「………」

手を伸ばして、輪虎は信の頬に触れた。眼球を動かすこともせず、信は輪虎がいることに気づかない。

どうしたものかと輪虎は思考を巡らせた。

きっと家臣たちも信のためにあれこれ手を尽くしたに違いないが、このまま食べも眠りもせずにいれば、衰弱し続け、死んでしまうだろう。

王騎を追い掛けて自害をしなかっただけ褒めてやるべきかもしれないが、こんな死に方をして王騎が喜ぶはずがない。

輪虎は何度か名前を呼び続けたが、やはり反応は同じだった。

最愛の父を失った今、彼女は全てを拒絶しているのだろう。悲しみに心が捕らえられてしまったのだ。

「信…」

呼び掛けても、触れても反応がない。一体どうしたら彼女の意識を戻すことが出来るのだろう。

輪虎は信が横たわる寝台の端に腰を下ろし、彼女を目覚めさせる方法を模索した。

「…ん?」

寝台のすぐ近くに置かれている机に、水差しと花瓶が置かれている。しばらく花を飾っていないのだろう、花瓶には何も入っていない。

王騎は男にしては珍しく花を愛でる男だった。屋敷の至るところに花が飾られており、浴槽にも花を浮かべるのだと信から聞いたことがあった。王騎から花の香りがするのはそのせいだったらしい。

どうやら信は花を愛でる趣味は受け継がなかったようだが、もしかしたら彼女の意識を呼び戻すことが出来るかもしれないと輪虎は立ち上がった。

 

花と目覚め

屋敷の中にある庭には、色とりどりの花が植えられていた。

家臣に声をかけ、咲いている花を摘ませてもらった輪虎はすぐに信の部屋に戻る。

話を聞くと、屋敷に飾っている花は、街で買うこともあれば、この庭の花を使うことがあるのだそうだ。

「信…」

机に置かれている花瓶に摘んで来た白い花を飾る。部屋に花が飾るだけで、それまで暗い雰囲気だった部屋が、急に色を取り戻したかのように見えた。

摘んで来たばかりの瑞々しい白い花のおかげで、生命力が漲って来たような、そんな印象があった。

王騎が生きていた頃は、彼女の部屋にもこうして花が飾られていたのだろうか。

「……、……」

それまでずっと虚ろな瞳を浮かべていた信の瞳が鈍く動いたので、輪虎ははっとした。

「信?信、わかるかい?」

肩を揺すって名前を呼ぶと、信は静かに鼻を啜った。

「…父さん…?」

花が飾られている方に視線を向け、信が掠れた声でそう言ったので、輪虎はまだ彼女の意識が完全に戻って来ていないのだと察した。

恐らく花の香りで王騎が傍にいるのだと勘違いしているのだろう。輪虎は静かに唇を噛み締める。

完全に意識を取り戻した彼女を待つのは、王騎の死という残酷な現実だ。

再び心を閉ざしてしまうのではないかという不安もあったが、輪虎は彼女の名前を呼ばずにはいられなかった。

「信、戻っておいで」

幼い頃から剣を握っていたことで、マメと傷だらけの、皮膚が肥厚している彼女の手を強く握り締める。

輪虎の声に導かれるように、信の瞳が光を取り戻す。ようやく目が合った。

「……輪虎?」

「やあ、おはよう」

寝ぼけ眼とは言い難い、腫れぼったい瞳を何度か瞬かせて、信は輪虎のことを見つめていた。

どうして彼がここにいるのだろうといった表情を浮かべ、それから信は思い出したかのように、瞳から涙を溢れさせた。

「父さん、父さんが…」

震えている肩を擦ってやりながら、輪虎は静かに彼女に寄り添っていた。傍にいることくらいしか、輪虎にはやってやれることがなかった。

両手で顔を覆い、声を上げて泣き始める。頬を伝う涙の痕や、腫れぼったい瞳を見る限り、意識のない間もずっと泣き続けていたのだろうが、彼女の涙は枯れることはない。

きっと信にしてみれば、あのまま死ねた方が良かったと思っていることだろう。

そんなことを王騎が望むはずがないと信も分かっているはずだ。それでも無意識に死を望むほど、彼女の心は悲しみに囚われていたのだろう。

悲しみだけでなく、父を助けられなかった悔恨や自分への怒りに、心がはち切れてしまいそうになっているに違いない。

分かっていて輪虎は残酷な言葉を信に投げかけた。

「…これを機に、剣を捨てるかい?」

弾かれたように信が顔を上げる。それまで悲しみの色を浮かべていた瞳が、たちまち憤怒の色に染まっていく。

「そんなこと、する訳ないだろッ」

喉から声を振り絞るようにして信が怒鳴ったので、輪虎は肩を竦めるようにして笑った。
なんの躊躇いもなく答えたということは、本心で間違いない。

「じゃあ、いつまで泣いてるつもりだい?悪いけど、僕は君がめそめそしている間にも、先を行くよ」

挑発するように輪虎が言うと、信がさらに目尻をつり上げる。

過去に手合せをして、輪虎に勝ったことが数えられるくらいしかないことに、信が危機感を抱いているのは知っていた。

いつもの調子を取り戻したことに、輪虎の口の端がつり上がる。悲しみに囚われていただけで、心は死んでいなかったのだ。

「少し、思い出話をしようか」

輪虎が静かにそう囁いたので、信は不思議そうに目を丸めた。

 

義父と婿

「…信は知らないだろうけれど、君を初めて抱いた日に、僕は王騎将軍に矛を向けられたんだよ」

「え?」

信が驚いて見開いた目を丸めた。

輪虎と信が初めて体を重ねたのは、呉慶将軍率いる魏軍と秦軍の戦いの後だ。

戦を見に行くぞと王騎に引っ張られるように連れ出された。その後、戦に勝った麃公と祝杯を挙げ、さらにその後に廉頗の屋敷で酒を飲み交わした。

連日連夜、将軍たちに酒を飲まされて体調を悪くしていた信はついに廉頗の屋敷でぶっ倒れたのである。その時に看病をしてくれたのが輪虎だった。

従者たちは王騎や大酒飲みの廉頗をもてなすために忙しくしており、信の看病をする者がいなかった。そこで輪虎は酒を飲まない理由になると思い、自ら信の看病を名乗り出たのである。

その時に身体を重ねてしまったことは、信にとっては酒の失敗、輪虎にとっては魔が差しただけ。

翌朝になって同じ褥で目を覚まし、お互いに忘れようと誓い合ったはずなのだが、都合よく記憶から消えることはなかった。

触れ合った素肌の感触も、絡ませた手の温もりも、破瓜の痛みも、囁かれた言葉も、信の中には今でも深く根を張って残っている。

輪虎も同じように、あの夜のことを忘れていなかった。

二度寝を始めた信を残して部屋を出て、そこで王騎と遭遇してしまったことも、はっきりと覚えている。

「…随分と娘を可愛がってくれましたねェって。冗談抜きで殺されるかと思った」

自分の首元に手の側面を押し当てながら、輪虎はそう言った。矛を向けられたのだろうと分かり、信が瞠目する。

「な、なんで?父さんがそんなこと…」

父が理由もなく相手に武器を向けるような男じゃないことを信は知っていた。

理由が分からないでいる信に、輪虎は不思議そうに首を傾げる。

「それは君が大切な娘だからでしょ。僕がどこの馬の骨か分からない男だったなら、弁明する間もなく、綺麗に真っ二つにされていたと思うよ」

男女が一つの部屋にいて、何事もなく朝を迎えたと信じる方がおかしい。王騎は輪虎と信が身体を交えたことを察したのかもしれないし、情事の最中のあれこれを聞いてしまったのかもしれない。

「そ、それで、どうなったんだよ…」

話の続きが気になっている信に、輪虎はくすくすと笑った。

「合意の上か聞かれたよ。信の方から誘ったって言ったら、どうなるか反応を見てみたかったけど…」

ふはっ、と輪虎が元々細い瞳をさらに細めて笑う。もしもこの場に王騎がいたら、体を真っ二つに引き裂かれていたかもしれない。

実際に誘ったのはどちらでもない。どちらともなく気づけば唇を、肌を重ね合っていた。酒の恐ろしいところだ。

「お前は父さんになんて言ったんだよっ?」

「…知りたい?」

ああ、と信はすぐに頷いた。だが、輪虎は自分の薄い唇に人差し指を当てる。

「内緒」

「教えろよッ!減るもんじゃないだろ!」

「うーん、こればっかりはねえ…」

困ったように肩を竦める輪虎だったが、話す気がないことが分かると、信はすぐに諦めたように「ちぇ」と言った。

「あれ?気にならないのかい?」

「気になるに決まってんだろっ!…でも、父さんが気に入る返事だったってのは分かったから」

信にそう言われ、輪虎は意外そうに目を丸めた。

自分があの時、王騎に殺されなかったのは、彼の気まぐれではなかったのだ。信が言った通り、王騎が気に入る返事をしたのだろう。

「…そっか」

随分と腑に落ちたように、輪虎が呟く。

「どうしたんだよ」

信が小首を傾げたので、輪虎は「なんでもないよ」と首を振って笑った。

 

義父と婿 その二

―――先に部屋を出た輪虎は、澄んだ空気を胸いっぱいに吸い込んだ。空には薄白い明るさが広がっている。

「………」

瞼を閉じれば、信の破瓜の痛みに打ち震える姿、切ない声で何度も自分の名前を呼ぶ姿が浮かび上がって来る。これは当分忘れることは出来なさそうだ。

しかし、罪悪感ではなく、優越感のようなものが胸を満たしていることに気が付いた。

廊下を曲がると、廉頗と遅くまで飲んでいたのだろう王騎が立ちはだかるように立っていた。その手には彼の体格に見合う大きさの矛が握られている。

「王騎将軍」

挨拶をしようとして、輪虎が笑みを繕った途端、全身の毛穴を針で突かれるような嫌な感覚に襲われる。

その正体が、自分を見下ろしている王騎の瞳から発せられる殺気だと分かると、輪虎は昨夜の信とのことを気づかれたのだと瞬時に理解した。

愛娘を襲ったと誤解されているのかもしれないが、輪虎は弁明をするつもりはなかった。自分が信を抱いたのは事実だ。

何も話そうとしないどころか怯む気配もない輪虎に、王騎の分厚い唇がゆっくりと三日月の形へ歪んでいく。

「まず、合意の上だったのか答えなさい」

自分の頬に指を押し当てながら、輪虎が小首を傾げる。

「…殴られたような痕が見えますか?」

嫌がる彼女を押さえつけて無理やり行為に及んだ痕跡がないことを、輪虎は挑発的に王騎へ知らしめた。

合意の上であったことが分かると、王騎が残念そうに肩を竦める。

「…では、あなたは、本気であの子を愛しているのですか?あなたも信も、次に会う時は敵同士かもしれないんですよォ?」

王騎こそ敵将の屋敷を訪れているではないかと心の中で悪態をつきながら、輪虎は胸を張って、真っ直ぐに彼を見据えた。

「…これは、王騎将軍が望んでいるような答えではないと思いますが…」

前もってそう言うと、王騎の瞳から放たされる殺意がますます重く、濃くなった。しかし、輪虎は怯むことなく、言葉を続ける。

「彼女が将をやめるのなら、その時は、僕の妻に迎えようと思います」

「………」

予想していた言葉ではなかったらしく、王騎の片眉がぴくりと動いた。

「信が将であり続けるのなら、僕はその道を阻むことはしません。敵として相見えた時は、容赦もしません」

左手の甲を右の頬に押し当てながら、王騎がココココと独特に笑った。

「傲慢!なんたる傲慢!娘の父に結婚を申し込む言葉ではありませんねェ」

先ほどのように鋭い殺気は消えている。輪虎が告げた言葉が、一句でも彼の気に触れたとしたら、今頃は首と体が離れていたかもしれない。

一頻り笑った後、王騎が今度は穏やかな眼差しで輪虎を見下ろした。

「…あなたは、あの子が将をやめるはずがないと、分かっているのですね?」

「ええ」

輪虎はすぐに頷いた。

「それじゃあ、どうして抱いたんです?信を女にさせたのは、妻に欲しかったからではなかったんですか?」

「それは、先ほど将軍がおっしゃった通りですよ。次に会う時は敵同士かもしれない」

王騎の分厚い唇がまた三日月の形に歪んだ。

「随分と無粋な思い出作りですねェ?」

「僕も信も孤児で拾われた身ですから、そういう礼儀だとか作法は一切教養がないんです。将軍こそ、男に尽くす方法を彼女に教えなかったでしょう?」

拾われた時から信が男勝りだったのかは知らないが、将としてでなく、どこかの名家に嫁がせるために淑女としての教育を受けさせることだって出来たはずだ。だが、摎も王騎も信にそれをしなかった。

「ココココ。随分と生意気なことを…大将軍という立場は色々と忙しいんですよ。廉頗将軍の傍に居るあなたなら分かるでしょう?」

「…本当は、信を誰にも渡したくなかったら、そういった教養をしなかっ」

首筋にひやりと冷たいものが押し当てられて、輪虎は無言で両手を挙げた。絶対に続きを言わないことを態度で誓うと、王騎は大人しく矛を下ろす。

いつの間にあの重い矛を振り上げたのか、輪虎の目には映らなかった。

王騎は縁側から空を見上げる。朝焼けが広がり始めていた。

「この戦乱の世で生きていくには、強さがないといけません。生きる術だと言っても良いでしょう。信はそれを幼い頃から知っていた」

「………」

「もしも、あの子が武器を手放す・・・・・・ようなことになれば…その時は楽しみました」

空を見上げたまま、王騎がそう言った。

その言葉が耳を通って脳に染み渡り、理解するまでにはかなりの時間が掛かった。

「…それは…」

輪虎の言葉を、王騎が「勘違いしないでください」と早口で遮る。

「どこの馬の骨かも分からぬ男より、昔からあの子のことを知っている男の方が、私としても都合が良いだけですよ。今の秦には、まだそのような男が育っていないだけのこと」

王騎から思いがけない言葉が出て来たことで、輪虎の心臓は早鐘を打っていた。

「…素直に、僕なら娘を任せられるって言…」

再び首筋に冷たい刃が押し当てられたので、輪虎は再び両手を挙げて口を閉ざすしか出来なかった。

ゆっくりと王騎が矛を下ろしたので、許しを得たのだと察した輪虎は、再び王騎を真っ直ぐ見据えた。

「…もしも、次に戦で相見えた時、僕は、あなたでも信でも容赦はしません。廉頗様のために」

揺るぎない忠義をぶつけるつもりでそう言うと、王騎は楽しそうに目を細める。

「ンフフフ。義父と嫁に刃を向けるだなんて、婿としては失格ですねえ。まだ蒙武さんや王翦さんの息子たちの方が礼儀正しいですよォ」

そう言うと、王騎は輪虎に背を向けて歩き始める。

彼の姿が見えなくなっても、輪虎はその場からしばらく動けずにいた。

廉頗の剣となって幾度も強敵と戦って来たし、死地も駆け巡って来た輪虎であっても、やはり踏んでいる場数が違う。

彼の花の香りの裏には、一体どれだけの血の香りが染みついているのか輪虎には分からなかったが、それでも信のことを想って自分に矛を向けた彼は大将軍ではなく、父親としての威厳があった。

 

 

後日編(蒙恬×信)

このお話はバーサーク(蒙恬×信)本編の後日編です。

 

ゆっくりと瞼を持ち上げると、薄暗い部屋にいることに気が付いた。

もう陽が沈み始めているらしく、部屋に小さな明かりが灯されている。いつの間に眠っていたのだろう。

寝台の上で、信は見慣れない天井を眺めながら小さく息を吐いた。

「っ…」

下腹部に疼くような鈍い痛みを覚えて、信は思わず歯を食い縛る。

怠さの残っている体を起こし、寝具が掛けられているだけで何も着ていないことに気付くと、眠る前の記憶が一気に雪崩れ込んで来た。

「あ…あ…」

どろりとした粘り気のある何かが内腿を伝ったことに気づき、信は顔から血の気を引かせる。

呼吸が速まって、体ががたがたと震え始める。

震えを抑えようと自分の両手で肩を抱くが、手首に指の痕を見つけて、余計に身体の震えが激しくなった。

早くここから逃げなくてはと思うのだが、体は少しも言うことを聞いてくれない。

「っ…」

扉が開かれる音がして、信は弾かれたように顔を上げた。一番会いたくない男がそこにいた。僅かな明かりだけでも、すぐに分かった。

「おはよ、って言っても夜だけど」

湯浴みをしていたのか、蒙恬の茶髪が濡れていた。

「…、……」

体を覆っていた寝具を引き寄せる。まるで見えない縄で喉を締められているかのようで、息苦しい。

誰が見ても怯えていると分かる彼女に、蒙恬は優しい笑みを浮かべながら歩み寄った。

いつもと何ら変わりない穏やかな笑顔が、今は恐ろしくて堪らなかった。

「体は辛くない?」

まるで気遣うように優しい声で問われる。

自分に凌辱を強いておきながら、よくもそんなことが言えるものだと腹立たしくなったが、体の震えは止まらないままだった。

「う…」

蒙恬が身を屈めて唇を重ねて来たので、信は強く目を瞑って体を固くさせていた。

彼を突き飛ばすことも出来ず、入り込んで来た舌が口内を蹂躙するのも耐えることしか出来ない。かといって、舌を絡ませることも出来ず、信はただただ身を固くしていた。

「はあっ…」

ようやく唇が離れると、信は肩で息をしていた。蒙恬も弾む呼吸を整えながら、ぺろりと己の唇を舐めている。

はっきりとした目鼻立ちで、異性にも負けぬほど端正に整った蒙恬の顔に、虜になる女も多いことだろう。そういう女と身を結ぶべきだと、なぜ彼は分かってくれないのだろう。

しかし、信にとって蒙恬は友人であり、それ以上でもなければそれ以下でもなかった。

この関係を破ろうと思ったことなど一度もなかったのに、どうしてこんなことになってしまったのだろうと涙を浮かべながら考える。

「信」

「ッ…」

二本の腕で体を抱き締められ、信の心臓が早鐘を打つ。

怯えている彼女を落ち着かせるように、蒙恬が背中を撫でた。無理やり体を暴いた男と同一人物だとは思えないほど、その手付きは怖いほど優しかった。

「ねえ、明日は婚礼の衣装を仕立ててもらおう?いつもの着物みたいな青も良いけど、信には赤が映えると思うんだ」

「…え…?」

掠れた声で信は聞き返した。

彼女の反応を楽しむかのように、蒙恬は口元に笑みを浮かべている。

「みんなの驚く顔を見るのが楽しみだね」

「ッ…!」

寝台に身体を押し倒されて、信は悲鳴を喉に詰まらせた。

力ない入らない腕で、信は蒙恬の身体を押し退けようとする。無駄な抵抗をする彼女を見下ろして、蒙恬があははと笑った。

「祝宴を挙げたくないなら、別に俺は構わないよ?信がおめでただって分かるまで、ずっと寝台に縛り付けておいてもいいって思ってるから」

「う…」

骨が軋むほど力強く右腕を掴まれて、信は思わず顔をしかめた。過去に輪虎によって傷をつけられた場所である。

情事の際にも、蒙恬は執拗にそこを掴んだり、歯を立てて来た。新しい傷痕をつけることで、消し去ろうとしているのだろうか。

「ねえ、信はどっちがいい?」

下唇をきゅっと噛み締めて、信は弱々しい瞳で蒙恬を睨み付ける。卑怯だと怒鳴りつけてやりたかったが、喉はずっと強張ったままで声が出なかった。

自分に選択肢を与えておいて、結局は一つの道しかない。蒙恬の妻になることも、彼の子を孕むことも、蒙恬の中では既に決定事項なのだ。

窓の向こうでは、夜の気配が濃くなって来ており、空は闇に覆われていた。

幾つもの傷痕が残っている右腕が、ずきんと疼いた。

 

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