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終焉への道標(李牧×信←桓騎)後編

終焉への道標5
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  • ※信の設定が特殊です。
  • 女体化・王騎と摎の娘になってます。
  • 一人称や口調は変わらずですが、年齢とかその辺は都合の良いように合わせてます。
  • 李牧×信/桓騎×信/年齢操作あり/ヤンデレ/執着攻め/合従軍/バッドエンド/All rights reserved.

苦手な方は閲覧をお控え下さい。

このお話は「平行線の終焉」の牧信IFルートです。

中編③はこちら

 

真実

残酷な真実が耳から脳に染み渡るまでには、やや時間がかかったらしい。

「お前、なに言ってんだよっ」

発作的に言い返されるが、李牧は信の両肩を掴んだまま放さない。

「桓騎と秦国を捨てて、俺を選んだのはお前の意志だ。その過程があって、今の俺たちがいる。思い出せ」

目を見開いた信が唇を震わせ、顔を蒼白にさせている。両腕で耳に蓋をして、何度も首を横に振った。

「い、やだ…いや、思い、出したく、な…い」

拒絶の言葉を聞き、李牧は確信した。
信は今、底に封じられていた記憶を取り戻すことに葛藤している。それを思い出すことに恐怖しているのだ。

封じられた記憶を取り戻せば、その心痛に耐えられないことを彼女は理解しているに違いない。だからこそ、今の彼女はこんなにも恐怖している。

その痛みさえ受け入れさせて、桓騎と祖国を見捨てて自分を選んだことを分からせてやりたかった。

耳に蓋をしている彼女の両腕を強引に引き剝がす。

真っ直ぐに目を見据えながら、李牧はなおも残酷な言葉を紡いだ。

「目を背けるな。お前は桓騎と秦国を、全てを捨てて俺を選んだ。お前にはそれを受け入れる義務がある」

「いやだッ」

李牧を押し退けようとしたその両腕には、少しも力が入っていなかった。その場から逃げ出そうとした彼女の細腰を抱き寄せる。

信の顎を掴んで無理やり目線を合わせると、底に封じられた記憶の蓋を抉じ開けるように、低い声で囁いた。

「思い出せ、あの男を」

涙で濡れた黒曜の瞳が揺れた。

 

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「いや、いやだぁ…」

子どもが駄々をこねるように、信は首を横に振る。

全てを捨てて自分を選んだくせに、今さら何を恐れるのかと李牧は苛立たしげに舌打った。

なおも目を背けようと抵抗する彼女の顔を掴んで、無理やり目線を合わせてみても、信は子どものように泣きじゃくるばかりだった。

まともに話を聞こうとしない彼女に苛立ちが止まないものの、声を荒げるような真似はしない。これ以上怯えさせたところで、彼女は記憶を取り戻す拒絶を強めるだけだ。

「…信」

泣きじゃくっている彼女を慰めるように、李牧は彼女の体を抱き締める。可哀想なほどにその体は震えており、今のは冗談だと、つい嘘を吐いてしまうところだった。

「ううっ…ひっ、ぅ…ぅ、う…」

すぐに胸に顔を埋めて背中に腕を回してくる彼女に、絆されてしまいそうになる。

しかし、それではだめだ。信に真実を受け入れさせなければ、いつまでも過去に引き摺られることになる。

涙が伝っている頬に唇を押し当て、李牧は残酷な真実を嘘だと撤回するとなく、薄く笑んだ。

「俺がなぜお前の両目を奪わなかったと思う?」

「え…」

泣き腫らした瞳で、信が李牧を見上げる。

「あの男の首を見せるためだ。姿が見えぬと、悲鳴を聞かせても気づかないだろう?お前は信じようとしないだろう」

刃のように冷たいその言葉に、信がますます萎縮したのが分かった。
血の気を失った唇を震わせながら、信が微かに首を横に振る。

「か、…桓、騎…」

掠れた声で呼んだ名前が自分以外の男であったことから、李牧の胸は鉛が流し込まれたかのように重くなる。

思い出せと命じたのは自分のはずなのに、彼女の心を巣食っているのはやはりあの男だと、無情にも思い知らされた。

 

崩壊

「いやだっ…!」

信は涙を流しながら、李牧の体を突き飛ばした。

よろめいた李牧が机に体をぶつけ、空になっていた茶壺※急須のことと茶器が床に落ちる。小気味良い音を立てて、茶壷と茶器が割れてしまう。

子どものように泣きじゃくりながら信が身を屈め、床に落ちている茶器の破片を左手で掴むと、すぐにそれを首に宛がった。喉を切り裂くつもりなのだと瞬時に李牧は理解した。

「やめろっ!」

焦りと怒気が声に滲む。
柔らかい皮膚に鋭い破片が食い込んだのを見て、青ざめた李牧は衝動のままに彼女の頬を打つ。

「ううっ」

頬を打たれた信が茶器を手放し、その場に崩れ落ちる。

しかし、彼女は未だ首を掻き切るのを諦めなかった。床に落ちている別の破片に左手を伸ばしたのを見て、李牧の目の裏が燃えるように熱くなる。

「信ッ!」

破片を拾おうとしていた左手を容赦なく踏み付け、李牧が怒鳴りつける。

「うっ、う、ぅううっ…」

堰を切ったように双眸から大粒の涙が溢れ、食い縛った歯の隙間から、信が泣き声を上げる。

左手を踏みつけていた足を退かし、李牧は肩で息をしていることに気が付いた。

寸前のところで阻止したものの、あのまま彼女が喉を切り裂いていたらと思うと、全身の血液が逆流するようなおぞましい感覚に襲われた。

今までだって、やろうと思えば出来たはずだった。

この部屋の中で帯を使って首を括ろうが、食器を割って首を切り裂くことだって、幾つもの死地を乗り越えて来た彼女が自害する方法を知らぬはずがない。

記憶を取り戻し、祖国と仲間たちを裏切った罪悪感に蝕まれた心が自らを死に至らしめようとしている。

李牧は信に、秦国と桓騎を裏切って自分を選んだことを思い出させたかっただけで、決して彼女が死ぬことは望んでいない。

望んでいるのはその逆で、信と共に生きることだった。

 

 

これ以上言えば、信が舌を噛み切る恐れだってあることは分かっていた。それでも、李牧は堰を切ったかのように、胸に押し込めていた言葉を吐き出していく。

「お前は、桓騎と祖国を裏切って俺を選んだ。だからこそ、お前は今ここ趙国にいる」

「あっ…ああ、ぁ…あ…」

虚ろな瞳で涙を流しながら、信は李牧の言葉を拒絶することも出来ず、ただ聞いていた。
彼女の頬をそっと手で包み、無理やり目線を合わせる。

「いずれ、桓騎の首を見せてやる。そう遠くはないだろう。お前を助けるために、あの男は自ら命を差し出しに来るはずだからな」

当然のようにそう言ったのは、李牧に確信があったからだ。

秦国へ送り付けた彼女の右手と剣を見れば、誰もが彼女の死を認めざるを得ない。しかし、あの男だけはきっと信の死を信じることはない。生きていると確信をしたのなら、何としてでも救出に来るに違いないと李牧は読んでいた。

その時こそ、桓騎の命が散る瞬間を信に見せつけ、この腕の中だけがお前の居場所であると彼女に知らしめる時だ。

たとえ真実を受け入れられずに、信の心が砕けてしまったとしても、もう彼女が自分以外の男に抱かれることはない。その事実さえあればそれで良かった。

思考を巡らせていたせいか、信の左手が再び茶器の破片を掴んだことに、李牧は気づくのが遅れてしまった。

「ッ!」

茶器の破片を握る左手が視界の隅に映り込んだ瞬間、すぐにそれを抑え込もうとしたのだが、信の行動の方が僅かに早かった。

返り血が顔に跳ね、一瞬遅れてから、李牧は目の前の状況を理解する。

「ぁああ”あ”ッ」

茶器の破片で両目を切り裂いた信が悲鳴を上げている。小気味良い音を立てて、血に染まった茶器が床に転がった。

「信ッ!」

両目から血の涙を流しながら、信がその場に蹲る。

「いた、痛いぃッ、いたい、いたいッ」

自ら両目を引き裂いた激痛に堪え切れず、幼子のように泣き喚く。李牧はすぐに従者に声をかけ、侍医の手配を急がせた。

「馬鹿なことをッ」

自ら目を切り裂いたのは、桓騎の死に顔を見たくないという彼女なりの意思表示だったのだろう。

手巾で上から強く圧迫してみても出血は止まらず、それだけ深く傷をつけたことが分かる。油断していたとはいえ、李牧は止められなかったことを後悔した。

信にとって、桓騎という存在がそれほどまで強く心に根を張っていたことを今になって思い知らされたのだった。

 

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傷が深かった分、かなりの出血ではあったものの、命に別状はないようだった。

人間は目の前に何かが迫ると、反射的に瞼を閉じる習性があるというが、瞼ごと眼球が切り裂かれていた。

恐らくは二度と光を見ること出来ないだろうと侍医は冷酷に告げた。

包帯で両目を覆われた信は、今は寝台の上で寝息を立てている。

もしもあの時、両目ではなく、首を掻き切っていたのなら、きっと絶命していたに違いない。視力を失ったとしても、信の命が繋ぎ止められたことに、李牧はただ安堵していた。

桓騎の屍を見たくないという拒絶の意志から、衝動的に、自ら命を絶つことよりも両目を切り裂いたのだろう。

視力の回復の見込みがないことは、侍医に言われなくても李牧も察していた。これで彼女に桓騎の亡骸を見せることは叶わなくなってしまった。

無理やりにでもあの男の死を受け入れさせれば、信の未練は断ち切られると思っていた。今度こそ自分を選んでくれると思っていたのに、自らの手で両目を奪うほどに信の心は屈強だった。

今さらになって、彼女の心根の強さに惚れたことを思い出す。

自分が信のもとを去り、趙の宰相に上り詰めたのも、全ては彼女を滅びの運命にある秦国から救い出すためだったのに、自分の傲慢さを優先するようになっていたのはいつからだろう。

「…信」

身を屈め、彼女の額に唇を落とした。
包帯が巻かれている両目には、治癒を促す軟膏が塗布されており、薬草の独特な匂いが鼻をつく。瞼の傷が塞がるまではこの処置を続けるのだと侍医に言われた。

傷の手当てを施しながら、眠らせる薬湯も飲ませていたので、しばらくは目を覚ますことはないだろう。

右手だけでなく、両目まで失った信を見下ろす。

残っている右手で武器を持つようになるのではないかと危惧したこともあったが、視力を失ったことで、これで完全に戦場へ立てなくなった。

これで信は自分から逃げられないと安堵したことに、李牧は彼女を手に入れたいあまり、歪んだ愛情を抱いてしまったのだと自覚する。

だが、結果論だけで見れば、桓騎から信を取り戻す・・・・ことが出来た。どんな形であれ、彼女が傍にいる。

今の李牧には、それだけで十分だった。

 

 

終焉への道標

宮廷から屋敷に帰って来たのは数日ぶりのことだった。

留守を任せていた家臣たちから、留守中は特に変わりなかったとの報告を受け、李牧は屋敷の敷地内にある別院へと向かう。

家臣たちは李牧の後ろをついて歩いていたが、別院の入り口で足を止めると頭を下げ、そこからは誰一人としてついて来ない。

構わずに李牧は廊下を進み、一番奥にある寝室の前に立つ。
閂が嵌められている扉が軋む音を立てており、向こうから扉を押し開けようとしているのだとすぐに分かった。

思わず吐いた溜息は深かったが、反対に口角は軽く持ち上がっている。

「あ、ぅわっ…!?」

閂を外して扉を開けてやると、向こうから扉を押し開けようとしていた信が倒れ込んで来た。急に扉が開いたことで驚いたようで、小さな悲鳴が上がる。

「信」

反射的にその体を片手で受け止めた。

今でも包帯に包まれている両目では、何が起きているのか分からないようで、信はしきりに首を動かしていた。
そんなことをしても、その瞳にはもう一筋の光さえ届かないというのに。

「信」

静かに名前を呼ぶと、信が驚いたように体を竦ませて顔を上げる。

「あ…り、李牧…?」

左手を持ち上げて、頬に触れて来る。
視力を失った彼女は、残された左手を使って輪郭や、髪の毛、鼻の形に触れることで、相手が誰であるかを認識するようになっていた。

「か、帰って、来たのか?」

「ああ」

返事をすると、信はぎこちない笑みを浮かべる。
李牧が帰って来たことに安心した反面、どこか不安を抱いているようだった。

以前よりも随分と軽くなった彼女の体を抱きかかえると、体の至るところに新しい青痣が作られていることに気づく。

従者たちに身の回りの世話をさせているものの、この別院の奥にある寝室で一人で過ごす時間が多い。

視力を失った彼女は、少しの段差にも気づけず躓いてしまうし、家具の配置を理解出来ずに体をぶつけてしまうのだ。

怪我をしないよう、従者たちに付きっきりで世話をさせず、わざと一人の時間を長くしているのは、信の心を常に自分へ向けさせるためだった。

寝台に座らせてやると、信の左手は李牧の着物を掴んで離さない。
その手を離そうと手首を掴むと、信が首を横に振った。

「あ、ま、待ってくれ…まだ、行くな…」

不安に顔を染めている彼女を見て、李牧の口角がつり上がる。しかし、声を堪えていることから、信は李牧が恍惚な笑みを浮かべていることに気づくことはない。

「信、悪いがまだ執務が残っている」

わざと突き放すように冷たい言葉を掛けると、信が唇を噛み締めながら、名残惜しそうに着物から手を離した。

視力を失い、暗闇の世界で生きる信は、いわば孤独だった。

右手を失ったばかりの頃と違い、従者たちとも話す時間は限られており、今の自分が眠っているのか起きているのかも分からない、気の狂いそうになる時間を彼女は一人で耐えている。

だからこそ、李牧がこの部屋を訪れる度に、信は大いなる安心感を得ることが出来る。孤独を忘れることが出来る唯一の時間だからだ。そしてそれが、今の彼女の心を保っていると言ってもいい。

李牧自身、宰相としての執務があるのは嘘ではないのだが、冷たく突き放すことで、信の心を壊すことも繋ぎ止めることも出来ることを分かっていた。

そして、信自身も李牧に捨てられれば、もう自分に行き場所がないことを理解しただろう。両目を失って意識を取り戻してから、桓騎や秦国の名前を一言も発さなくなったのは、李牧の機嫌を損ねないために違いない。

これからも信が自分だけを求めるように、李牧は今の状況を最大限に利用しているのである。

 

 

「あ…も、もう少し、だけ…一緒に、…」

李牧が立ち上がると、信が小さくしゃっくりを上げて泣き始めてしまう。

一人にしないでほしいという静かな訴えに、立ち上がった李牧は思わず部屋を出るのを躊躇った。その顔は喜悦に歪んでいる。

自らの手で両目を引き裂き、視力を失っても、涙を残す機能は残されていた。包帯に染みが作られたのを見て、李牧は彼女の頬に手を伸ばす。

「…扉を開けようとしていたな」

外から閂を嵌めていることは告げず、李牧が問い掛けた。ここが母屋ではなく、別院の奥にある寝室であることは彼女に教えていない。

彼女に告げていたのは、この部屋から出てはいけないということだった。

「待っていろと約束したはずなのに、黙って部屋から出ていくつもりだったのか」

信が顔を歪めたのを見て、それが答えだと確信する。

「ち、ちがう…」

震える声で否定したが、それが嘘だというのは誰にでもわかることだった。

そして、それはまだ彼女がここから逃げ出したいという意志を捨てられずにいる証拠である。

わざとらしく大袈裟な溜息を吐くと、信が肩を竦ませる。

こんなにも彼女が臆病になり、その場をやり過ごそうとする嘘を吐くようになったのはいつからだろう。

包帯で両目を覆われていても、李牧から向けられる冷たい視線に耐え切れなくなったのか、寝台から立ち上がり、震えながら床に膝をついた。

「あ…あの、ごめ、ごめんッ、しない、…もうしない、…大人しく、待つ、から…」

包帯にいくつもの涙の染みを作りながら、謝罪を繰り返す姿は加虐性を煽らせた。

彼女が部屋を出ようとした理由など分かり切っている。孤独に耐え切れず、自分を探しに行こうとしていたのだ。

約束を破ってまで、自分を探そうとしていた彼女の健気な気持ちに、李牧の心は潤った。

「ごめん、ごめん、なさい」

信がここまで怯えているのは、李牧に見捨てられれば今度こそ行き場所を失ってしまうからだ。

右手と光を失い、二度と戦場に立てなくなった彼女は、もう記憶を取り戻している。
しかし、敵国の宰相のために国を出て、将としての価値を失った自分は、秦国へ帰っても受け入れてもらえないと思い込んでいるらしい。

だからこそ、病的なまでに彼女は李牧に捨てられることを恐れているのだ。

「り、李牧、ごめ、ん、ごめ、なさい、ご、ごめん…あの、俺…」

何も話さない李牧にますます怯えてしまい、信は泣きながら何度も謝罪を繰り返す。

記憶を取り戻してからの信はいつだって涙を流している。泣かせているのは自分だという自覚は十分にあったのだが、それでもいつかは自分を欺いて、傍にいない時に逃げ出そうとしているのではないかという疑惑が晴れない。

その疑心のせいで、信に対する愛情にさらなる歪みが生じ始めていることも、李牧は自覚していた。

しかし、生じた歪みを元に戻そうとは思わない。
それだけ彼女を愛していることも、彼女に狂わされているのも事実だからだ。

「信」

名前を呼ぶと、信の肩が大きく竦み上がった。

恐る恐るといった具合にこちらの機嫌を伺ってくる彼女に、李牧はなるべく怯えさせないように笑む。

「俺との約束を破ったのは事実だ」

すっかり痩せ細った両足に視線を落とすと、両目は見えないはずなのに、その視線に気づいたのか、泣きながら逃げようとした。

李牧の許可なしに無断で部屋を出ようとするのなら、次は足を落とすと言っていたことを思い出したのだろう。

すでに左手の親指は完治し、今では自由に使えている。右手が使えない分、左手で色々と補っているようだが、まさか閂を嵌められた扉を開けようと試みると思わなかった。

壁伝いに扉に辿り着いたことも、脱走を企てていたに違いない。

つい先ほどまで、自分に会いたがっていたはずだと優越感に浸っていた心は、いつの間にか彼女が自分から逃げ出すのではないかという焦燥感に包まれていた。

身を捩る彼女の右足を掴むと、か細い悲鳴が上がる。

「ひぃッ…!やっ、いやだ、…」

意図を察したのか、涙声で信が李牧の手を振り払おうと身を捩る。しかし、李牧は細い足首から手を放すことはしなかった。

「次に約束を破ったら、脚を落とすと言ったのに、約束を破ったお前が悪いんだろう」

諭すように穏やかな声色をかける。声色に一切の怒気は籠めていないというのに、信は震えながら首を横に振った。

もう信はこの部屋から出ることがないというのに、なぜそんなにも足を失うことを恐れているのだろうか。

「も、もうしない、ほんと、ほんとだから、頼む、おねが、お願いします」

包帯の隙間から流れ落ちた涙が頬伝うのを見て、今彼女を泣かせているのは他でもない自分だと直感した。

やるせない気持ちに襲われて、右足を掴んでいた手から力が抜ける。
足を放された信は、なりふり構わず、すぐさま李牧の前に跪いた。

「何をしている」

額を床に押し当てて、これ以上ないほどに頭を下げる信の行動を李牧はすぐに理解出来なかった。

彼女が約束を破ったのは事実だし、謝罪一つで許してもらえると思ったのなら、それは自惚れでしかない。李牧は彼女を許すつもりで右足を離した訳ではなかった。

「信」

名前を呼んでも、信は体を震わせるばかりで顔を上げようとしなかった。

手を伸ばして、李牧は彼女の顎を掴むと、無理やり顔を上げさせる。李牧はそっと彼女の唇に指を這わせながら口を開いた。

「足を落とされるのは嫌か」

泣きながら信が何度も首を縦に振る。

「俺に捨てられるのは?」

「い、やだ…」

「では、簡単な問いだ。なぜ約束を守れなかった?」

刃のように冷え切った声で詰問すると、瞼の隙間から大粒の涙が込み上げた。

「り、李牧が、帰って来ないから、あの、俺、探そうと、思って…だ、誰も、李牧がいつ、帰って来るか、どこに行ったか、教えて、くれないから」

しゃっくり交じりの涙声で必死に言葉を紡ぎ、扉を開けようとした理由を打ち明ける。

それが本心なのか、こちらの機嫌を損ねないように吐いた嘘なのかは分からない。

しかし、前者であると信じたいのは、信を愛しているからこそだ。
沈黙している李牧を見て、さらに機嫌を損ねたのではないかと、信が再び怯えたように謝罪を始めた。

額に床をついて何度もごめんなさいと繰り返す信に、李牧の乾き切った心に再び水が差す。

自分に捨てられたくないと全身で訴えており、必死に李牧の機嫌を取ろうとするその態度を見て、心の底から優越感が込み上げて来た。

もう彼女が自らの意志で自分から離れることは出来ないのだと、安堵に近い感情が李牧の口角を持ち上げていく。

李牧が声を堪えて笑っていることに、両目を失った信が気づくはずもなかった。

 

終焉への道標 その二

「お前はいつだって俺に怯え、俺の機嫌を伺う女になってしまったな」

「……、……」

責められるように冷たい声を向けられ、つい俯いてしまう。そんな信の態度を見て、李牧は小さく溜息を零した。

「俺と共にいるのが恐ろしいのだろう?傍にいない方が心休まるはずだ」

李牧のその言葉が、自分への拒絶だと理解した途端、信の顔がたちまち絶望に染まっていく。

「…以前から縁談が届いている。今までは不要だと思い断っていたが、こうなれば愛人を何人か作らなくてはならないな」

妾と聞いて、信の心臓が早鐘を打ち始める。このままでは李牧に捨てられてしまうと直感で察した。

「あ…や、いやっ、やだっ」

自分以外の妻を迎えることと、彼女たちに子を産ませようと考えている李牧に、信は悲鳴に近い声を上げた。

信の左手が李牧の着物を力強く掴んだ。許しを請うように、信は李牧に頭を摺り寄せる。

正式に婚姻を結んだものの、もしも李牧が妾を迎えて、その妾が子を孕んだとなれば、李牧は必ず自分から興味を失うだろう。考えるだけで、信の心は砕けてしまいそうなほどひどい痛みを覚えた。

約束を守らず、夫に尽くすことも出来ない自分を咎めているのだと分かったが、李牧に捨てられれば、もう自分には帰る場所がない。

将として生きることも、この敵地で女一人で生き抜くことも、何の術も持たぬ今の信には、李牧だけが拠り所だった。

野たれ死ぬのが嫌な訳ではない。敵国の将であることを理由に、死よりも辛い辱めを受けるのが怖い訳でもない。

全てを捨てて李牧を選んだ愚かな自分が、その李牧自身に捨てられるという結末を迎えるのがただ恐ろしくて堪らなかった。

「いやだ…!」

お願いだから捨てないでほしいと全身で訴える信に、李牧の口角がつり上がっていることに、彼女が気づくことはなかった。

 

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夫婦という対等であったはずの関係が、主従関係にすり替わっていることに、以前から李牧は気づいていた。

だが、婚姻関係などという弱い鎖で縛り付けておくよりも、この方がずっと良かった。

自分から逃げても、その先には何もないのだと信が理解している。それは何よりも強い足枷と鎖になって、彼女を繋ぎ止めておいてくれる。そう考えるだけで、李牧の心は満たされた。

「信」

手を伸ばして、泣きじゃくっている彼女の頭を撫でてやる。

こちらの機嫌を窺うように信がゆっくり顔を上げたので、李牧は何も言わずに彼女の唇を指でなぞった。

「………」

主の意を察したのか、信は鼻を啜ると膝立ちになり、手探りで李牧の下衣に左手を伸ばす。

目が見えないことから、手探りで男根を探そうとする彼女のたどたどしい仕草が、今となってはとても愛おしかった。

「う…」

左手だけでは ※ズボンを脱がすことが出来ず、信は鼻息を荒げながら歯を使って紐を外そうと試みる。

口での奉仕のやり方は過去に幾度となく教え込んでいたが、着物の脱がし方を教えたことはない。右手が使えないので、残された左手と口を使って懸命に男根に辿り着こうとする姿が犬のように思えて滑稽だった。

その姿が見たいために、着物に手をかける時はあえて助言をしないようにしている。

「はあっ…」

なんとか手と口の両方を使って紐を解き、褲を歯で噛んで下げると、信がすぐに男根に舌を這わせ、口に含む。まるで飢えた犬のようだった。

先ほどまでずっと泣きじゃくっており、緊張のせいか、信の口内はひどく乾いていた。ざらついた舌が男根を擦り上げて来る。

「ふ、う…ん、ふぅッ…」

必死に舌を動かし、左手が男根の根元を扱く。

異物を咥えているせいか、少しずつ唾液が分泌されて来て、信が頭を動かすたびに淫靡な水音が立ち上がって来た。

口の中で少しずつ硬くなっていく男根を感じて、信の瞳に安堵の色が浮かんだ。上手く口淫をすることが出来れば、これ以上こちらの機嫌を損ねないのだと健気に学習していたらしい。

自分を喜ばせるためだけに口淫を施す彼女の姿を、あの男にも見せてやりたいと思った。

お前ではなく信は自分を選んだのだと笑いながら、信の体を犯し尽くす姿を見せつけてやれば、あの男は自ら舌を嚙み切るだろうか。

信に桓騎の亡骸を見せてやれないことだけは心残りではあったが、今となってはもうどうでもいいことだった。

「う、ぶッ」

興奮のあまり、信の頭を抑え込み、根元まで男根を咥えさせる。陰毛に鼻を埋め、男根が隙間なく喉が塞ぐと、呼吸が出来ずに信の体が硬直した。

くぐもった声を鼻から洩らすものの、歯を立てるようなことはしない。左手が李牧の太腿を弱々しく掴むだけだった。

「っ…う、…ッぐ、ぅ、ぶ…」

永遠に閉ざされた瞳から涙が止まらず、体の痙攣が始まったのを機に、李牧は男根を引き抜いた。

激しくむせこんで、信が必死に呼吸を再開する。息が整うよりも前に、再び手探りで李牧の男根を見つけ、すぐに舌を這わせて来た。

褒めるように優しく頭を撫でてやると、惚けた表情で信が男根を口に含む。
李牧が腰を引くと、戸惑ったように信が顔を上げた。

身を屈めて彼女の体を抱き起こし、寝台に横たえると、信が緊張で固唾を飲んだのが分かった。

もう幾度となく身を繋げているというのに、未だに彼女はその腹に李牧の精を受け入れることを苦手としているらしい。

ここ最近になって月事※月経が再び途絶えてしまったのは懐妊が原因なのか、それとも両目の怪我が原因なのか、未だ侍医には判別がつかないという。もしも懐妊しているのなら、近々症状が出るに違いない。

「無理はしなくていい。俺の子を孕むのが嫌なんだろう?」

もうその腹に自分との子を孕んでいるかもしれないというのに、信が拒絶出来ないことをわかった上で、李牧は彼女に選択を委ねた。

「嫌、じゃ、ない…欲しい」

はっきりと信がそう言ったので、李牧は思わず頬を緩ませる。

自分を受け入れてくれることを信が言葉にしてくれるだけで、救われたような気持ちになる。たとえ自分の機嫌を損ねないように吐いた偽りの言葉であったとしても、彼女が桓騎ではなく自分を選んだことに意味があった。

「李牧…」

甘えるように信が名前を呼ぶ。その期待に応えるように、李牧は彼女に口づけていた。

 

二人で進んでいるこの道が、たとえ救いのない終焉へ続いているとしても、決して引き返すことも、後悔することもない。

元より、もう自分たちには戻る道など、残されていないのだから。

 

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李牧×信のハッピーエンド話はこちら