毒も過ぎれば情となる(桓騎×信)

毒も過ぎれば情となる(桓騎×信)前編

毒も過ぎれば情となる1
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  • ※信の設定が特殊です。
  • 女体化・王騎と摎の娘・めちゃ強・将軍ポジション(飛信軍)になってます。
  • 一人称や口調は変わらずですが、年齢とかその辺は都合の良いように合わせてます。
  • 桓騎×信/毒耐性/ギャグ寄り/野営/IF話/All rights reserved.

苦手な方は閲覧をお控え下さい。

このお話は「毒酒で乾杯を」の番外編4作品目です。

 

安眠

桓騎は昔から眠りが浅い体質で、寝酒が欠かせなかった。

しかし、信と男女の関係を持ち、彼女と共に褥に入るようになってからは寝酒の量は驚くほど減っている。

今までは寝酒を飲んでも、娼婦を抱いても、眠気とは無縁であったというのに、不思議なものだ。

まるで何の不安も経験したことのない無邪気な寝顔を曝け出す信を見ていたら、自然と眠気に誘われるのである。人肌の温もりも重なって、気が付いた時には夢の世界に落ちているのだ。

眠りは長く持続しないので、信より先に目を覚ますのだが、それでも眠ったという実感は強くある。

桓騎がもともと眠りが浅い男だというのを信は知らない。自分の睡眠事情など、信が尋ねることもなかったし、桓騎もわざわざ言うことはしなかった。

以前は一刻でも眠れば眠った方だったのだが、信と共に褥に入る時は朝方まで目を覚ますことがない。睡眠で身体の疲労を取るという感覚を初めて知ったような気がした。

信といえば激しい情事でくたくたに疲れ切って、翌朝になっても足腰が使い物にならなくなることが多いが、桓騎はそうではない。

信を抱いたあとの桓騎は心身ともに調子が良くなるのだ。
そういう時は決まって、仲間たちに何か良いことでもあったのかと問われる。

どうやら信と一夜を共にした時は、いつもより口角がつり上がっており、普段以上に気分良く過ごしているように見えるらしい。

それは桓騎には一切の自覚がなく、仲間たちに指摘されてから初めて気が付いたことだった。

 

 

その日もくたくたになるまで体を重ね、程よい疲労感が瞼に眠気として圧し掛かっていた。
腕の中の信の温もりも合わさって、眠気がどんどん増していく。

眠りに落ちる瞬間がこれほどまでに心地良いものだと知ったのは、信と男女の関係になってからのことだった。

瞼を落とし切り、意識の糸を手放しかけた瞬間。

「…そうだ。俺、しばらく来れねえから」

「あ?」

思い出したように信からそんな話を持ち出され、一瞬で頭から水を被せられたように眠気が飛んでいった。

眉間にしわを寄せてしまったのとドスが効いた声を洩らしたのは、眠りを邪魔されたことと、しばらく信と会えなくなると分かったからである。

「趙に動きがあるらしい。国境の偵察に行けって昌平君に言われたんだよ」

すっかり忘れていたと、軽い用事を思い出したような口調で語る信に、桓騎はどうしようもなく苛立ちを覚えた。

「なんで今になって言うんだよ」

せめて屋敷に来てから話してくれたのならと思ったものの、桓騎の気持ちを知る由もなく、信は小さく首を傾げた。

「んなこと言われても…話そうとしたのに、お前が遮ったんじゃねえか」

反論され、桓騎は思わず片眉を持ち上げた。
そういえば信が屋敷に来てから、すぐに寝室に連れ込んだことを思い出す。

最後に会ったのは、とある闇商人と婚姻させられそうになった彼女を助けた後だった。
その商人から譲り受けた一級品の嫁衣を着用した信と、それはもう初夜の雰囲気を楽しんでいたのだが、飽きずに繰り返したことで、いい加減にしろと信の機嫌を損ねてしまったのだ。

それから桓騎は信に避けられる日々が続いていた。しかし、それは長くは続かず、彼女の長所であり短所である単純さによって、時間が解決したのである。

信の好物でもある鴆酒を手に入れたと書を出せば、信はすぐに屋敷にやって来た。自分に会いに来たのではなく、鴆酒を目当てであることはあまり気分が良くないが、久しぶりの再会は嬉しい。

さっそく鴆酒を飲もうとしていた信を抱き上げて寝台に運ぶと、それはもうさんざん文句を言われた。

しかし、結局は桓騎に触れられれば、彼女の体は反応してしまい、……今に至るというワケだ。

話を聞こうとしなかったお前が悪いと咎められるも、桓騎が不機嫌な表情を崩さないので、信は呆れたように肩を竦めた。

 

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安眠妨害

「あーあ、せっかくの鴆酒も飲み損ねちまった…」

せっかく楽しみにしていた美酒がお預けとなり、信は口を尖らせる。

今から飲めば良いものを、どうやら国境の偵察に行くために、もう明日には屋敷を出なくてはならないのだそうだ。

酒瓶を持っていって偵察の合間に飲めば良いと伝えたが、信はそれを断った。
桓騎軍と違って規律を守る飛信軍の将という立場であることが一番の理由だが、鴆酒は一般的に暗殺道具として用いられる毒酒であり、間違って仲間が口を付けたら大事になるという心配があるようだ。

仲間のために嗜好品を我慢するなんて、彼女らしいと思った。

「帰って来たら好きなだけ飲ませてやるよ」

「当たり前だろ。独り占めするんじゃねえぞ」

国境の偵察から戻るまでに、桓騎が鴆酒を全て飲み干してしまうのではないかと信は危惧しているらしい。

貴重な毒酒を仕入れた時は、必ずと言っていいほど信を誘っているというのに、どうやら信頼されていないようだ。

桓騎が信を酒の席に呼ぶようになったのは、彼女が自分と同じで毒に耐性を持っていることを知ってからだ。

今では男女の関係になったこともあり、彼女と毒酒を飲み交わす時間は、桓騎にとって今まで以上に心安らげる時間になっているのである。

当然ながら毒酒の相手をしてくれるのは、自分と同じように毒の耐性を持っている信だけであり、こればかりは重臣たちにも務まらない。

一人で飲んでも味気ないので、最近は信がいない時に毒酒を飲むことを控えるようになっていた。

昌平君が国境の偵察に向かうよう信に指示を出したのは、恐らく戦の気配が濃く表れているからだろう。

指揮を執っているのはあの李牧だ。どのような手段で侵攻してくるか分からない。
もしも趙の侵攻が始まったとすれば、飛信軍ほどの実力がないと容易に抑えることは難しいという総司令の判断に違いなかった。

趙の宰相である李牧には、たとえ戦場であったとしても決して信と会わせたくなかったのだが、こればかりは桓騎の独断ではどうすることも出来ない。

 

 

過去に成立した秦趙同盟の際、信が鴆酒を飲んで毒の副作用――まるで媚薬を飲まされた時のように性欲の増強と感度が上昇する――を起こした際に、李牧は彼女を抱いたのだ。

副作用が落ち着いた朝、信は何度も桓騎に謝罪した。李牧とそういうことになった過程を、嘘偽ることなく一部始終吐かせたのだが、桓騎はその一夜の過ちを決して許さなかった。

もちろん信から誘ったわけではないのは本人の口から聞かずとも分かっていたが、それでも好いている女が自分以外の男に汚されるのは気分が良いものではない。むしろ最悪だ。

趙の宰相の名前を聞く度に反吐が出そうになる。もしも戦場で相見えることがあったのなら、あの男だけは必ず自分の手で殺してやると桓騎は誓っていた。

「ふわあ…」

信が大きな欠伸をする。眠気が来たのだろう。

桓騎と違って、彼女は眠い時にはすぐ眠れるし、体を休ませなくてはならない時はすぐに眠ることが出来るらしい。一人の時は寝酒の力を借りても少しも眠れない桓騎とは正反対だった。

もう寝る、と信が瞼を下ろす。こうなれば身の危険を察知するか、朝になるまで目を覚まさないだろう。

桓騎の予想通り、すぐに信は寝息を立て始めた。
薄口を開けて気持ちよさそうに眠るを見つめながら、静かな寝息に耳を澄ましていると、桓騎の瞼も自然と重くなっていく。

彼女の肩をしっかりと抱き、触れ合う温もりに意識を向けていると、瞼を持ち上げていられなくなり、桓騎は意識の糸を手放していた。

 

しばしの別れ

肌寒さを感じて桓騎が目を覚ました時、窓から白い光が差し込んでいた。冬が近づいて来ていることもあり、朝もよく冷え込むようになった。

腕の中の温もりがなくなっていることに気づいた瞬間、桓騎の意識が覚醒する。すでに信の姿はなくなっていた。

寝具の中にも温もりは残っておらず、どうやら自分が眠っている間に出発してしまったのだと気づく。

(寝過ごしたな)

しばらく会えなくなるのだから、見送りくらいはしてやりたかった。
信が起きる気配を感じたなら、すぐに目を覚ますと思っていたのだが、自分の眠りの浅さを過信し過ぎたようだ。

きっと信も、眠っている自分を起こすまいと気を遣って声を掛けなかったのだろう。
風邪を引かぬようにという配慮なのか、肩までしっかり寝具が掛けられていたのを見て、何だか虚しさを覚える。

自分も先に目を覚ました時には、彼女が風邪を引かぬようにと同じことをしているのだが、もしかしたら信も同じ感情を抱いているかもしれない。次からは信が目を覚ますまで寝台から離れるのをやめて、彼女の寝顔を堪能していようと思った。

「…ちっ」

残り香を感じて、思わず不機嫌に舌打ってしまう。
いつまで会えないのかは分からないが、趙の動きを見張るとのことだから、それなりに長い期間となりそうだ。

次に会うのはいつになるのか。考えるだけでも気が重くなってしまう。

そんなことを信本人に伝えたとしても、首を傾げられるだけなのは目に見えているのだが。

以前、お前がいないと退屈だと、酒の席で正直に伝えたことがあった。すると、彼女は何度か瞬きを繰り返して、

―――暇なら、他の奴らと一緒にいりゃあ良いじゃねえか?

こちらの気持ちなど少しも理解していない返答をされ、思わず吐いた溜息が深かったことを覚えている。

今回と似たような状況で信が不在の間に、娼婦を呼びつけようと考えていたことがあった。結局そのときは気が乗らず、呼ばなかったのだが。

自分以外の女を抱くことを嫉妬するのではないかという期待を胸に、桓騎は信の不在の間は娼婦に相手をさせようと考えていると言ったことがある。たしかその時も、

―――は?なんでそんなこと俺に確認すんだよ。俺の許可なんて要らねえだろ。

拗ねているのだとしたら、表情と口調で見分けることが出来るのだが、その時の信も明らかに頭に疑問符を浮かべていた。嫉妬とは無縁の態度で、思わず口籠ってしまったことを思い出す。

 

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それだけじゃない。以前、闇商人から信を救出したときだって、面倒な男に絡まれなくなる方法――自分との婚姻――について親切に教えてやろうとしたのに、信は少しも理解していなかった。

こちらは以前からどのようにして求婚しようか試行錯誤していたのに、彼女は簡単にその想いを退けた。

相手が何を考えているのかを予見し、裏をかくのは桓騎が普段から得意とするところであった。

女との駆け引きもそうだ。
相手の要求は言わずとも分かっているが、あえてそれをしないことや、先回りした言葉を掛ければ、女たちは頬を赤らめて、喜んで尻尾を振る。女とはそういう生き物だと思っていた。

しかし、信に限ってはそうではない。女との付き合いはそれなりに数をこなしていた桓騎でも、過去に経験がないほど予想外の返答が来るのだ。

これほどまでに自分の思うように動かない女を相手にしたのは初めてのことで、桓騎も表情には出さずとも、いささか戸惑っているのである。

こちらは情けないほどに信に対して独占欲を剥き出しになってしまうというのに、彼女は自分が他の女を傍に置いていても嫉妬の素振りすら見せない。それが桓騎には許せなかった。

いつの間にか自分だけが彼女を追い掛けているような、尻尾を振って飼い主が構ってくれるのを待っている飼い犬のようで、滑稽で仕方がない。

決して見返りを求めている訳ではないのだが、自分が信に向けているのと同じ分だけ、信も自分に愛情を向けているのだろうかと考えることがある。

もちろんそんなことを本人に尋ねれば「何言ってんだ?」もしくは「頭でも打ったのか?」と気味悪がられるのは分かっているので、いつも結論は出ないままなのだが。

目に見えないものほど信じられないものはないし、色々と厄介なのものだ。

(…仕方ねえな)

憂鬱な気分のままで迎えた朝は、妙に肌寒さがあった。寝具はかけているものの、人肌が足りないのだ。

もう一眠りしようかと考えるも、信が腕の中にいた時にあったはずの睡魔はどこかへ消えてしまっており、二度寝をする気にもなれなかった。

仕方ないので着物を身にまとい、桓騎は寝室を出た。

 

憂鬱な日々

飛信軍が趙国の動きを探るために国境調査に行ってからというものの、特に上からの指令はなく、桓騎は仲間たちと気楽に過ごす日々が続いていた。

趙に動きがあったのならば、戦の準備を行うよう伝達が来るだろうと思っていたのだが、今のところはまだその心配はないらしい。

つまり、飛信軍が監視している今は、特に趙で目立った動きがないということだろう。

だが、趙軍を動かしているのはあの李牧だ。合従軍を結成して秦を追い込んだあの男のことだから、何もないと油断をさせたところで一気に畳みかけるということも考えられる。総司令がそれを警戒していることは分かっていた。

戦になるのならさっさと事を起こしてもらいたい。このままではいつまで経っても信が帰還出来ないではないか。

いっそこちらから出向いて戦を仕掛けてやろうか。いや、そうなれば信と二人きりで過ごす時間がさらに遠のいてしまう。

もう少しで冬になろうとしている。夜風が肌に痛むようになって来たこの季節に、信が野営をしていると思うと、早く連れ帰りたい気持ちになる。

彼女が風邪を引いた姿は見たことがないが、寒冷地で過ごすのは誰であっても負担となるだろう。
戦と違って物資の供給は滞りなく行われるはずだが、火を灯すのに必要な薪は足りているだろうか。桓騎の頭に色々と心配事が浮かんでいた。

 

 

「お頭~!」

その夜、屋敷で仲間たちと酒を飲んでいると、桓騎の肩揉みをしていたオギコが急に手を止めた。

「なんだ、オギコ」

「さっきから溜息ばっかり吐いてる!幸せが逃げちゃうよ!」

オギコに指摘され、そういえば何度目になるか分からない溜息を吐いていたことを自覚する。

どうやらオギコは溜息を吐くと幸せが逃げるという迷信を信じているらしい。
もしもその迷信が真実ならば、信が国境調査へ行ってから自分はどれだけの幸せを逃がしてやったのだろうか。

逃がした幸せを自分の意志のままに使えるのなら、飛信軍の国境調査が早々に終了となることを願ってしまう。

「まあ、今は仕方ねえよな。…にしても、本当にひでえ面だぜ?」

雷土に顔色の悪さを指摘され、桓騎は片眉を持ち上げる。付き合いの長い仲間たちは、桓騎がもともと眠りが浅いことを知っていた。

飛信軍が国境調査にいく話は秦軍の中で広まっていたし、桓騎が不眠を再発させた事情もそこにあるのだと仲間たちは気づいたようだ。

実は信と男女の関係となったことを彼らに一度たりとも公言した覚えはないのだが、勘の良い仲間たちはすぐに感付いてくれたらしい。

信がとある闇商人の策略に陥って婚姻をさせられそうになった時も、桓騎が提案した婚姻破棄計画を、彼らは二つ返事で協力してくれた。本当に気の良い連中だ。

「雷土みてェに毒煙吸ってゲエゲエ吐くより、溜息吐いてた方が良いだろ」

「あ”ぁ”!?いつの話してやがる!」

雷土が憤怒の表情で立ち上がり、桓騎を凄むが、桓騎は微塵も表情を崩さない。

「煙だけに、過ぎたことを再燃・・させるとは…さすがお頭と雷土さん。お上手ですね」

雷土の怒りを煽るように摩論が機転を利かせた言葉を告げると、雷土とオギコ以外がぶっと噴き出した。

こんなにも険悪な外見をしている元野盗たちの中でも、特に雷土が一番からかいやすく、何より反応が面白い。

あまり雷土と相性の良くない信にこの場面――桓騎と重臣たちの日常――を見せたら、どんな感想を抱くのだろうと桓騎は頭の隅で考えた。

「ねえねえ、信はいつになったら帰って来るの?信がいるときはお頭が溜息吐くことも眠れないこともないのに~」

オギコが子どものようにきらきらと目を輝かせながら、その場にいる全員に問いかけた瞬間、それまで賑やかだった部屋に、急に重い沈黙が流れた。

「あー、えー、…おほんっ!」

摩論がわざとらしい咳払いをしたあと、酒のお代わりを取りに行くと席に外した。こういう時に摩論はよく席を外す男だった。

 

 

それから十日ほど経過したが、この頃には桓騎の目の下から隈が取れなくなっており、寝酒の量が以前よりも増えていた。

相変わらず床に入って目を閉じても眠れない。まるで睡魔の方が首切り桓騎を恐れて避けているかのようだった。

眠れないだけで決して機嫌が悪いわけではないのだが、オギコが泣いてしまいそうなほど顔を歪めて怯えるものだから、恐らくは他の仲間たちも怯えているに違いない。

摩論が医者に眠り薬を煎じさせようかと提案してくれたが、そういう類の薬も寝酒と同じであまり効果を実感したことがないので断った。

これだけの期間、信と離れるのは初めてではない。互いに将という立場である以上、今回のような国境調査に限らず、戦が始まれば数か月会えなくなることだってある。

王騎と摎の養子であり、幼少期から戦を経験していた彼女は、死地と呼ばれるのに相応しい前線に駆り出されることが多い。

次の出征で彼女が命を散らすのではないかと危惧したことは一度や二度ではなかった。

信自身は親友である秦王と中華統一を果たすまで絶対に死なないと宣言しているものの、そんな意志一つで死を回避出来るとは思えなかった。(指摘すれば憤怒されるのは目に見えているので本人に伝えたことはないのだが)

もちろん信の実力を認めている桓騎も、彼女が簡単に首を取られるとは思っていないのだが、絶対はない。

褥で肌を重ねた時に、彼女の武器を持つ腕が驚くほどに細いことを知り、致命傷となった過去の傷痕見る度に、桓騎は複雑な感情を抱いてしまう。

戦場に立たせなければ、信はただの女なのだ。

いっそ彼女を孕ませ、無理やりにでも自分と婚姻を結ばせることで、戦場と無縁な暮らしを強要させる方法も考えたことがある。

だが、自分たちの唯一の共通点とも言える毒への耐性を獲得した代償なのか、信は子を孕めぬ体になったのだという。

確かにこれだけ体を重ねていても、信が未だに孕まないでいるのは体に原因があるからだろう。もしかしたら信が子を孕めぬように、桓騎も同じように女を孕ませられぬ体になっているのかもしれなかった。

もしも自分たちが婚姻を結んだとして、信はきっとこれまでと変わらずに戦場に立ち続けるだろう。秦王との約束さえなければ違ったのかもしれないが、桓騎にしてみれば、好きな女を死の淵に立たせることはしたくなかったのである。

「はあ…」

無意識のうちにまた溜息が零れてしまう。

「お頭~!」

オギコの甲高い声が耳に響く。どこからか自分の溜息を聞きつけて、また指摘しに来たのだろうか。

ばたばたと賑やかな足音と共に現れたオギコは両手に木簡を抱えていた。

「これ!お頭宛てだって!」

木簡を渡され、桓騎は送り主が誰からか尋ねるよりも先に紐を解いて木簡の内容に目を通した。それが信からでないことは分かっていたが、もしかしたら趙との戦の気配を警戒した総司令からだろうか。

いや、もしも総司令からなら簡単に開けられる紐ではなく、機密情報のやりとりをするため、名宛人以外には見らぬように、しっかりと封がされているはずだ。ただ紐で縛っているだけの、誰にでも開けられる木簡ということは総司令からではない。

だとしたら、この書簡の送り主は一体誰だろうか。

「…へェ?」

木簡に記されていた内容と、最後に記された名前に、桓騎は思わず口角をつり上げた。

 

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ムーンライズ・領主の帰還
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吉報

昌平君から撤退の指示が届いたのは、陽が沈み始めた後だった。

国境付近の監視を続けていたが、初日から今日に至るまで趙国にそれらしい動きはない。こちらの隙を突いて違う場所から侵攻してくる可能性も考えられたのだが、昌平君からの書簡によると、他の場所でも趙国に関する報告は聞かれていないらしい。

届いた書簡には、あと数日して趙国に動きがなければ一度咸陽に戻って来るようにと記されていた。そこで信は三日後の明朝に撤退することに決めた。

今回は国境調査が目的のため、負傷している兵を引き連れている訳ではないのだが、夜の移動は視界が悪く、冷え込みで体力を奪われる。出立するのなら朝が適切だろう。

「あと数日したら、ここを発つぞ」

兵たちに昌平君からの撤退の指示が出たことを告げ、三日後の明朝に出立準備を行うように告げた。

趙国がいつ侵攻してくるのかと緊張の抜けない時間ではあったが、ようやく帰れるとなって、兵たちも安堵した表情を見せていた。

相手があの李牧ということもあって、こちらが油断した隙を突いて、どこかから秦に侵攻してくるのではないかという不安はあったが、昌平君も相当警戒をしたうえでの撤退命令に違いない。

だが、正直のところ、信は撤退命令が出たことに安堵していた。

冬が迫ってきており、日に日に冷え込みが激しくなって来ていることから、野営生活を続けるのは兵たちへ負担になっていたからだ。

夜間も交代で見張りを行っているが、風邪を引いてしまった兵も出始めている。定期的に供給される物資の中でも特に薪の消耗が激しい。

供給があるとはいえ、無駄遣いをするわけにもいかなかったので、薪が底を尽きそうになったのならその辺の植物を使うしかない。ただ、あまり火を起こしたり、派手に薪収集を行うことで、趙国に監視していることを気づかれてしまうのではないかという危険もあった。

しかし、あと三日で帰還するのなら、次の供給を待たずに、帰還中に間に合う分だけの薪を確保しておけば良さそうだ。近くに生い茂っている木々や落ち葉を薪代わりにするように後で指示を出そう。

(あー、ようやく帰れるな)

一度自分の天幕に戻った信は両腕をぐーっと上に伸ばして、思わず長い息を吐いた。
最初に頭に浮かんだのは、ようやく帰還出来る安堵。それから次に浮かんだのが恋人の顔である。

(桓騎のやつ、ちゃんと俺の分の鴆酒残してるだろうな…)

もちろん寂しいという感情はあるのだが、それよりも好物の毒酒を独り占めされていないかの心配をしてしまう。

咸陽に帰還するとなると、移動に三日はかかる。咸陽で昌平君に此度の国境調査の報告も含めるとなると、桓騎に会うのはまだ当分先になりそうだ。

現況を知らせる書簡の一つでも送ろうかとも考えたのだが、桓騎のことだから昌平君が飛信軍に撤退の命令を出したことをすでに知っていそうな気がした。

こちらが伝えなくても、桓騎は大抵のことをすでに把握している。敵の動きもそうだ。すべてが桓騎の頭の中で動いているのかと思うほど、彼の読みは当たる。

そういった慢心からいつか隙を突かれてしまうのではないかという不安もあるのだが、桓騎が傲慢なだけでないのは確かだし、悔しいが、桓騎に従っておけば全部上手くいってしまうのだ。

 

 

「信ー、飯の支度手伝えよー」

軍師の河了貂に声を掛けられて、信ははっとして周りを見渡した。もう兵たちが夕食の準備を始めており、あちこちで火を焚き始めている。

もう少しでようやく帰還出来ると分かり、兵たちが嬉しそうな顔をしていた。しかし、細い両腕に大量の薪を抱えた河了貂だけは不満気な顔をしている。

「おいおい、なに怖い顔してんだよ、テン」

「本当に李牧がこのまま何もしないと思うか?」

その疑問はもっともだ。信も気持ちが分からない訳ではなかった。

「仕方ねえだろ。昌平君から撤退命令が出たんだから、いつまでもここにいる訳にはいかねェ。俺達がここで待ち構えてんのがバレて、李牧も策を練り直してるのかもしれねえし」

「…うん」

返事をするものの、まだ納得できない表情を浮かべながら、河了貂は薪を抱えたまま歩き始めた。

思い出したように、信が夕食の準備をしている兵たちに声を掛ける。

「三日後に帰還するから、帰還中の野営で使う分の薪は残しとけよ?その辺に生えてるやつで代用してくれ」

国境調査は戦と違い、兵糧や物資の供給は絶えることがないので、飢えや渇きに苦しむことはないのだが、冷え込みに対してはとにかく火を絶やさずに灯しておくしかない。

それに、いつ戦になるか分からない緊張を抱えながらの野営での長期間生活は、体に侵襲を与えるものだ。

軍の総司令である昌平君とは、報告もかねて定期的に書簡のやり取りを行っていた。

もしも書簡の返事が届かなかったり、不自然に兵糧や物資の供給が途絶えるようなことがあれば、途中で敵の襲撃に遭ったとみて間違いないのだが、今のところはそのような事態もなかった。

ただ、薪が足りなくなりそうなのは季節柄、仕方のないことだ。風邪を引いた兵たちもいるので、彼らの体調を悪化させないためにも、予想していた以上の薪を消耗してしまっていた。

野営をしているこの場所のすぐ近くに雑木林があり、薪の代わりになりそうな材料が十分にあったのは救いだった。

(このまま何も起きずに帰れりゃ良いんだがな…)

こちらが国境で動きを監視しているのを気づいた李牧があえて何もしなかったのか、そもそも戦の気配自体が誤認だったのか。

後者だったなら、ただの心配損で済む話なのだが、河了貂も言っていたように、相手はあの李牧ということもあって警戒が解けなかった。

とはいえ、いつまでも国境に潜伏するわけにもいかない。

こうしている間にも、もしかしたら趙国以外の敵国が秦の領土に侵攻して来るかもしれないし、水面下で趙国が別の策を企てているかもしれないからだ。今後に備えるためにも一度撤退し、兵たちを休ませる必要があるだろう。

夕食を終えたあとも交代で趙国の動きを監視するのだが、最後まで気を抜くなと呼び掛け、信は先に天幕へと戻ろうとした。

 

違和感

「ちょっといいか」

背後から声を掛けられて振り返ると、那貴が険しい表情をしてこちらを見つめていた。

「どうした、那貴」

「この辺りの植物は薪にしない方が良い」

信はきょとんと目を丸めた。薪の消耗が激しいことを気にして、雑木林から代用するように指示したのは確かだが、那貴はそれを良く思っていないらしい。

「なんでだよ」

特に冷え込みの激しい夜間は多くの薪を消耗する。帰還中の野営のことも考えると、かなり切り詰めて使わなくてはならないのだが、この近くに生えている草木ならば十分に薪代わりになるはずだった。

派手に火を起こすことで、国境付近にいることを趙国に知られる可能性を忠告しに来てくれたのだろうか。

しかし、那貴が口に出したのは予想外の言葉だった。

「この辺り一帯に生えてる草木は毒を持っているからな。触らない方が安全だ」

「なんだとっ!?」

これにはさすがの信も驚き、すぐに兵たちに警告を呼びかけようとした。

しかし、那貴はいつもの余裕そうな表情で、それはすでに初日から兵たちに伝えており、先ほども用心するように呼び掛けて来たのだという。

兵たちの間で毒が蔓延するのを防げたと安堵したものの、信は目尻を吊り上げて那貴を睨みつける。

「知ってたんなら早く教えろよな!」

「伝えるのが遅くて悪かった。俺がまだお頭のとこにいる時、ここの国境調査に当たったことがあったんでな」

まさかここで桓騎の名前を聞くことになるとは思わず、信は驚いた。

 

 

「それじゃあ、もしかして…この辺りの木々が毒を持ってるって、桓騎から聞いたのか?」

ああ、と那貴が頷いた。

「お頭がその辺に生えてた枝を串代わりにした肉料理を美味そうに食ってたのに、その隣で雷土がゲエゲエ吐いてたのを思い出したんだよ」

「………」

毒で苦しむ雷土を見て、桓騎が大らかに笑っている姿が目に浮かんだ。
串代わりにした枝に毒があるのを知っていたなら、雷土が料理を食べる前に警告してやれよとも思ったが、何も言うまい。桓騎とはそういう男だと信はよく知っていたからだ。

そして雷土も、毒を受けたというのに問題なく生還したあたり、やはり桓騎の右腕に相応しい男である。

「特に枝が危険だ。燃やすと毒性の強い煙が出るらしい」

「枝?」

てっきり桓騎が雷土をからかうために、枝に毒があることを黙っていて同じ料理を食わせたのかと思っていたが、そうではないらしい。

雷土が毒を受けたのは、燃やした枝の煙を吸い込んだからだという。

「煙に毒が含まれてるなんて、マジで危なかったな…」

もしも知らずに薪代わりにしていたらと思うと、信は嫌な汗を滲ませた。
那貴が仲間たちに知らせてくれなかったら、すでに今頃あの枝を薪代わりにして、大勢の兵が毒を受けていたことになっていただろう。そうなれば国境調査どころではない。

「………」

雑木林の方を振り返った那貴は、細長い枝と、竹のように長い葉と、桃色の花が特徴的な植物を見て、僅かに眉間にしわを寄せた。
よくよく見てみると、その毒性を持った植物は雑木林の大半を占めていた。

「…前に国境調査に来たときは、ここまで増殖していなかった。こんな雑木林はなかったはずだ」

「え?」

気になる言葉を聞き、信は那貴が睨みつけている視線を追いかけて、毒を持つ草木が大半を占めている雑木林を見つめた。

 

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束の間の休息

兵たちに雑木林の植物は一切手を出さぬように警告を呼びかけて、天幕に戻り、信はすぐに敷布の上で横になった。

夜間に一度、副長の羌瘣と見張りの交代をするので、早めに休んでおかなくてはいかない。
下僕時代の経験があるおかげか、信は夜露をしのげる場所ならば基本、どこでもすぐに眠ることが出来る。

桓騎も幼少期は恵まれない環境下で育ったと話していたが、彼は信と違って眠り下手・・・・だ。毎晩の寝酒が欠かせないのだと教えられた時、信はとても驚いた。

てっきり眠っている姿を誰かに見せたくないだとか、寝込みを襲われた過去があるのだとか、そういう経験から眠ることへの警戒心があるのかと思っていたのだが、そうではないらしい。

戦の最中で気が抜けず、くたくたに疲れ切っていても、眠りに落ちるまで随分と時間がかかるし、眠ったとしても一刻もしないうちにすぐ目を覚ましてしまうのだそうだ。

自分がそんなにも睡眠不足な生活を送ったならば、三日も持たずに倒れてしまうに違いないと信は思った。

しかし、桓騎と男女の関係になってからは、よく彼の寝顔を見るようになった。といっても、信の方が後に目を覚ますことが多いのだが、時々先に目を覚ますこともある。今回の国境調査へ行く日もそうだった。

桓騎の寝顔は、どんな夢を見ているのか気になってしまうくらい、穏やかな寝顔なのである。

付き合いの長い桓騎軍の側近たちも滅多に見ることがないというのだから、桓騎の寝顔を知っていることに、信は妙な優越感を抱いてしまう。

中華全土で首切り桓騎と恐れられているこの男も、こんな風に穏やかな寝顔を晒すことがあるのだと思うと、不思議な気持ちになる。

基本的に重臣以外は信頼していない桓騎が寝顔を見せてくれるのは、自分に心を開いているのか、重臣と同じくらい信頼してくれているからなのだと思っていた。

(はあ…早く、会いてぇな)

国境調査が長くかかり過ぎたせいか、今は好物の鴆酒を独り占めされないかの心配よりも、早く桓騎に会いたいという気持ちに、信は胸を切なく疼かせていた。

 

 

考え事をしていても、普段通りすぐに眠りに落ちてしまったのだが、あれからどれだけ眠っていたのだろう。

「ん、…」

ぞわぞわとした怖気とも痒みとも言い難い感触が体の上を這い回っており、信は鼻に抜けた声を出した。

(なんだ…?)

何かが胸と足の間を這いずり回っているような、妙な感触に今まさに襲われており、信はゆっくりと目を開いた。

眠る前は仰向けだったのだが、目を覚ますと横を向いていた。

桓騎と褥を共にするようになってから、彼に背中から抱き締められたり、向かい合ってお互いを抱き締め合いながら眠ることに慣れてしまったせいか、最近は仰向けよりも横向きで眠るのが習慣になっていた。

変な夢でも見ていたのだろうかと寝起きの思考で考えた瞬間、何かが胸と足の間を這いずり回るあの感触が、再び信の意識に小石を投げつける。

「…えッ!?」

すぐに自分の下半身に視線を下ろすと、明らかに自分のものではない骨ばった男の手が伸びているではないか。

反射的に後ろを振り返ると、そこにはいるはずのない恋人の姿があった。
桓騎は後ろから信を抱き締めるようにして、彼女の胸と脚の間に手を忍ばせていたのである。

目が合うと、やっと起きたかと言わんばかりに呆れの籠った色を向けられる。

どうして桓騎がここにいるのか。どうやって来たのか。なぜ自分の寝込みを襲っているのか。今何をしようとしているのか。

聞きたいことは山ほどあったのだが、それよりも信は驚愕のあまり、悲鳴を上げるために反射的に息を深く吸い込んだ。

「~~~ッ!?」

しかし、悲鳴を押し込むように片手で口に蓋をされてしまう。
指の隙間からくぐもった声を洩らすと、桓騎がにやりと口角をつり上げて不敵な笑みを浮かべた。

 

このお話の前日譚(5100文字程度)はぷらいべったーにて公開中です。

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